大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和6年度(2024年度)追・再試験
問16 (<旧課程>第2問(小説) 問4)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和6年度(2024年度)追・再試験 問16(<旧課程>第2問(小説) 問4) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は野呂邦暢(のろくにのぶ)の「鳥たちの河口」(1973年発表)の一節である。放送局のカメラマンを辞めざるをえなくなった「男」は、退職後、湾岸の河口に通って鳥の観察と撮影を行っていた。あるとき、傷ついた一羽の渡り鳥を見つけ、その後自宅で保護している。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文内に①〜⑦の番号を付してある。

① 男は空を見あげた。
太陽は依然として雲に隠れている。夜明けから朝をすぎても、男のまわりに漂っている光線はつねに午後のそれであった。男は両手をこすり合(あわ)せた。寒気は朝よりもきびしくなった。漂着物のうちで燃えそうなものはひろいつくしていた。男の目が板小屋にとまった。(もっと早く気がつけば良かった)足早に板小屋を一巡した。砂丘の前方にノリ養殖場があったころ、見張り番が寝泊(ねとま)りした場所と思われた。養殖場が河口の北に移ってからは見すてられたのだ。潮流が変(かわ)ってノリがここでは栽培できなくなったのだ。
② 男は小屋の空樽(あきだる)を焚火(たきび)の方へ運びあげた。頭上にもちあげて投げおろす。タガ(注1)がゆるんだ。靴で二、三回けると板はばらばらになった。(潮流ってやつはいつかは変るのだ)こわれた樽を焚火にくべた。こびりついたタール(注2)が溶けて刺戟(しげき)的ないい匂いを放った。火が継続的に燃えることを見とどけておいてカメラにとりついた。
水は沖へしりぞきつつあった。レンズでのぞくまでもなくそれがわかった。ココア色の泥が水の下からあらわれ、しだいにその面積を拡大してゆく。
③ 水に追われて葦原(あしはら)へにげた鳥たちが群(むれ)をなして干潟へ舞いもどり、泥の中にひそむ生物をあさり始めた。小エビや貝の肉は鳥の好物なのである。
一羽ずつ望遠レンズの視野におさめて観察した。見なれた鳥である。
④ ひとわたり鳥をしらべ終(おわ)ると、ふたたびノートに没頭した。1st Nov.という日付のページはハイイロヒレアシシギ(注3)を見た記録で埋められていたが、その日、ここを訪れたのはヒレアシシギではなかった。湾口で操業する漁船団を望遠レンズで見物するのに夢中になっていたので、その男が近づくのを知らなかった。うしろに人の気配がし、声をかけられて初めて気がついた。
「何か見えるかね」
五十代の半ばに見えた。以前から会いたかった、といい、マニキュアをした指でタバコをつまみ出してすすめた。その人物は男が勤めていた放送局のある町で、かなり大きい印刷会社を経営していた。局内の印刷物を一手に引きうけていた関係で、何回か顔を合せたことがあるけれど、二人だけで話すのは初めてだった。
「こないだ局へ行ってあなたのことを尋ねたらやめちまったときいたんで少しびっくりしたよ。どんな事情にしろ会社をやめてまで鳥の撮影にうちこむのはちかごろ見上げた生き方だとわたしは思ったな」
A 男は鼻白んだ。会社をやめたのは鳥のためではなかった。しかしそれを説明するのも億劫(おっくう)だった。
「二、三度お宅にうかがったけれど留守のようで、もっとも毎日ここへ出かけて来てたんなら会えないわけだ」
写真集を出したい、と訪問者はいった。それは結構だ、と男は如才なく相槌(あいづち)をうった。
「いや、あんたの写真集を出したいといってるんだよ、わたしは」
B 説明してもらいたい、と男はいった。社長はうむ、といってカメラをのぞき、干潟におりた鳥の群をしばらく黙って観察した。カメラから目を離さずに、
「あれはどうもイワミセキレイ(注4)のようだね」
男は自分の双眼鏡で確かめ社長の言葉を肯定した。社長は溜息(ためいき)まじりに、
「イワミセキレイが今じぶんねえ」
このごろの鳥は季節をえらばなくなったのだと男は答えた。
「そうなんだよ、11月にならないと見られないユリカモメが10月初旬にちらほらしたり、それから1月の白鳥が5月ごろ空を飛ぶのをわたしは見たことがある。なにしろめちゃくちゃなんだ」
「コースをそれる鳥も目立ちますね」
この人物が、「郷土の散歩」というシリーズで放送する15分のローカル番組に登場して、自分の趣味である鳥の生態観察について語ったことを思い出した。二年ほど前である。鳥は狂ってるのだ、と社長はいった。
「そしてだれも鳥の世界でおこっている異変に気づかない」
社長は昂奮(こうふん)した。C 砂丘の上を歩きまわりながらしゃべりつづけた。
「四、五日前にコウノトリを見たよ」
コウノトリはとっくに絶滅したと思っていた、と男がいうと、10月の季節風にのって大陸から渡って来たのだろう、と社長はいった。「どうですか」と社長は干潟をさして、
「ここは鳥にしてみれば地上の楽園だよ、それが五年以内に埋めたてられて石油コンビナートか何かそんなものになっちまう。渡り鳥もそうなったら寄りつかないね。そこでひとつどうですか、ここへやって来る鳥たちの記録写真を一冊くらい残してやってもいいと思うんだが、天草の羊角湾(ようかくわん)(注5)ね」
社長はあっちかな、いやこっちの見当かといって湾口を指した。
「羊角湾を埋めたてて淡水湖にしちまったらさっぱり鳥が寄りつかなくなったんだそうだ」
かなりネガ(注6)はたまっている、と男はいった。印刷はまかせてくれ、と社長はいった。
「グラビアにはうちとしても自信があるし、取次店にも話をつけるからその点はご心配なく。カラー印刷の機械も入れたばかりでね、新しい機械を」
刊行するとしていつごろの予定だろうかと男はきいた。
「そうだな、12月いっぱいで一応とりだめたネガを整理してもらいたいね。印刷はいつからでもかかれるから」
買う人がいるだろうか、と男は懸念した。
「長期間のうちにぼつぼつ売れたらいいじゃないか。それよりあんたの手間に見合うだけの印税をたっぷり支払えたらいいと思うんだが」
男はあわてて印税をあてにしてはいないこと、それより自分の写真集をもつことができたら倖(しあわ)せだといった。
「あなたの写真集でもあり鳥たちの写真集でもあるわけだ。鳥と潟海(かたうみ)(注7)の記念碑、いや鳥のための墓標というべきだろうか」
社長は湾口に目をそそいだ。つかのま夢みるような表情になって両手をひろげ、二、三歩海へむかって歩いた。そこで腕を上下にゆるく動かした。男は社長が鳥に化身したのではないかと一瞬いぶかった。社長はひろげた両腕で潟海を胸に抱きとるような身ぶりをして、陽気に叫んだ。
⑤ 「海が埋めたてられても写真集が出来たらその中に鳥も海も生きることになるんだよね」
⑥ 男はあの日、砂丘の端で社長がしたように両腕を水平にひろげた。―――写真集が出来たらその中に鳥も海も生きることになるんだよね。D なんという芝居気たっぷりのせりふだったろう、と男はにがにがしく回想した。
二回目の会見まで社長はのり気だった。判型や紙質の打合(うちあわ)せをした。三回目は不在で、四回目には営業部の係長が応対した。社長から何もきいていないという。噂(うわさ)によれば新式のカラー印刷用機械を購入したために多額の不渡り(注8)を出して、工場は債権者団体に差しおさえられているという。よくあることだ、と男は思った。またしても一つの潮流がむきをかえただけのことだ。
⑦ 焚火にくべた木の根は長い間、海中にあったらしく表面が水と砂の摩擦でなめらかになっていた。樹皮はむけてしまい肌は色褪(いろあ)せて女の腰のように白い。空樽は乾ききっていてタールのこびりついていない部分はほとんど煙もあげず透明な焰(ほのお)をゆらめかせた。
男はぼんやりと焚火に目をそそいでいる。火というものは人を夢見心地にするもののようで、うずくまって焚火の中心を見まもっていると、いつのまにか焰に溶けこみ火と一体になり、心がからっぽになるようである。時間は停止し、永遠そのものであるような海のざわめきと葦のそよぎしか聞(きこ)えない。男はしかし眠りこんだのではなかった。時おり火から目を離してカメラをのぞいた。潮がひき、露(あら)わになった干潟には見なれた鳥がおり、見なれない鳥もいた。新しい特徴をもった鳥をみつけても、男はもうシャッターをおさなかった。望遠レンズでつぶさに観察するにとどめた。
「きょうが終りだ」
ひとりごとをいうのは癖になっていた。砂の上にはさっき計算した数字があった。百日の休暇を自分は有効にすごしたのだ、と思った。(渡りの途中で、鳥も翼を休めるのだから)水辺に墜落した鳥(注9)を思いだした。E 自分は群から脱落した鳥の一羽かもしれぬ。しかしまだ飛ぶことはできる。写真集がふいになったとわかっても男は河口へ通うことをやめなかった。初めからそれほど期待はしていなかったのだ。退職金はまだいくらか残っていた。しかしそれも12月19日がぎりぎりの日限であった。明日から新しい生活のために都会へ出発することになる。
男はカスピアン・ターン(注10)が回復するのをひたすら待ちつづけた。治癒はおそく餌もはかばかしく食べない日があった。ようやく傷は癒え、身動きが活撥(かっぱつ)になった。夜ふけしきりに箱の中でもがいて短い啼(な)き声をもらすことがあった。これをきょう河口へ運んで放すつもりだったのだ。帰ったら船着場(ふなつきば)のあたりででも離してやろうと男は考えた。

(注1)タガ ―― 樽などにはめて、外側を堅く締め固めるための竹などで作った輪。
(注2)タール ―― 石炭や木材などを空気に触れさせないで蒸し焼きにしたときにできる、可燃性の黒い液体。
(注3)ハイイロヒレアシシギ ―― 渡り鳥の一種。直後の「ヒレアシシギ」も同じ種の鳥を指す。
(注4)イワミセキレイ ―― 渡り鳥の一種。
(注5)羊角湾 ―― 熊本県天草市にある湾。本作が発表された時期から1997年まで干拓事業が行われた。
(注6)ネガ ―― ネガフィルムのこと。写真の原板。
(注7)潟海 ―― 遠浅の海岸。
(注8)不渡り ―― 期限になっても支払いができない手形や小切手のこと。
(注9)水辺に墜落した鳥 ―― 男は以前、墜落した鳥を観察中に目にした。男が保護している鳥とは異なる。
(注10)カスピアン・ターン ―― カモメ科の渡り鳥の一種。男が保護している鳥。


下線部D「なんという芝居気たっぷりのせりふだったろう、と男はにがにがしく回想した。」とあるが、社長についての男の受け止め方はどのように変化したか。その説明として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
  • 写真集が人間だけでなく自然のためのものでもあることを説く社長のひたむきさに好感を持ったが、自分の価値観を見せつけているだけだったと捉え直し、社長の主張に同意してしまったことを不愉快に感じている。
  • 男の写真集を出すことに積極的になってくれる社長の誠意に心ひかれたが、他人の人生に関わる場面でも自分の善意に酔う自己顕示的なふるまいだったと捉え直し、社長の言動に振り回されたことを不愉快に感じている。
  • 男と鳥の双方にとって記念になると言って写真集の提案をする社長の理念に魅力を感じたが、思ってもいない出まかせを言っているだけだったと捉え直し、社長の姿勢に幻惑されてしまったことを不愉快に感じている。
  • 鳥が姿を消しても写真によってその姿を伝えることができるという社長の前向きな考えに鼓舞されたが、会社の厳しい状況を隠す演技にすぎなかったと捉え直し、社長の焦りに気づけなかったことを不愉快に感じている。
  • 鳥や地域の自然について鳥のような動きまでしながら強い思い入れをみせて語る社長の姿勢に引き込まれたが、空疎でわざとらしい言動だったと捉え直し、社長の提案に同調してしまったことを不愉快に感じている。

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この過去問の解説 (3件)

01

下線部D以前では、

・男の「写真集をもつ倖せ」だけでなく印税についても考える

「写真集が出来たらその中に鳥も海も生きることになる」と再開発を憂いせめてもの姿を残そうとする

社長の姿が描かれています。

 

一方で、下線部D以降では、

・二回目の会見までのり気だった

三回目は不在

・四回目は写真集の企画について何も知らない営業部の係長が応対した

・多額の不渡りを出した

・工場が債権者団体に差しおさえられた

と、現実的な理由から写真集に対する熱が冷めた社長の様子が描写されています。

 

それに対して男は、

・「よくあることだ」と思った

一つの潮流がむきをかえただけのことだ

と、写真集の企画が潰えたことに落胆しつつ、それも仕方ないと諦めています。

 

さらに踏み込めば、写真集の企画について話すときは直接訪ねてきて、「社長はひろげた両腕で潟海を胸に抱きとるような身ぶりをして、陽気に叫んだ」とあるほどに熱意を込めて語ったにも関わらず、企画が倒れた際には自身がフェードアウトし自然消滅を狙うという社長の行動や人柄に対して深く失望したこともわかります。

 

選択肢がすべて「不愉快に感じている」で締めくくられているのは、そもそもそうした社長の身勝手な態度を不愉快に感じているためです。

あとは、社長に対してだけでなく、自分自身のどのような行動について不愉快に感じる要素があったのかを絞りましょう。

 

また下線部Dで鍵を握るのは、「芝居気たっぷりのせりふ」との描写です。
 

元来「芝居」は現実でないもの、現実味のないもの、虚構の物語などを指します。

④段落でも「つかのま夢みるような表情になって」など、社長の言動が現実離れしている様子が描かれています。

下線部Dに「にがにがしく回想した」とあるように、今思えば男にとって、姿を消した社長の昔の言動には現実味がないと感じていることになります。

 

これらをまとめると、「かつての社長は写真集の刊行へ並々ならぬ熱意を見せていたのにも関わらず、企画が倒れた話はせずに姿を消す社長に失望するとともに、今思えば現実味のないとわかるほどの「熱意あるかのような言動」を、さも本物かのように思い込んで社長と手を組んだ自分に対しても腹立たしく思っている」のような内容になります。

 

これらをうまくまとめている正答は「鳥や地域の自然について鳥のような動きまでしながら強い思い入れをみせて語る社長の姿勢に引き込まれたが、空疎でわざとらしい言動だったと捉え直し、社長の提案に同調してしまったことを不愉快に感じている。」です。

 

それでは他の選択肢も見ていきましょう。

選択肢1. 写真集が人間だけでなく自然のためのものでもあることを説く社長のひたむきさに好感を持ったが、自分の価値観を見せつけているだけだったと捉え直し、社長の主張に同意してしまったことを不愉快に感じている。

不適当です。

 

前半の「写真集が人間だけでなく自然のためのものでもあることを説く社長のひたむきさに好感を持った」のは、社長の熱意にのせられた男の様子を表しており、誤りとは言い難いです。

より厳密にいえば「自然」のためではなく「鳥」のためではあります。

 

また、後半の「社長の主張に同意してしまったことを不愉快に感じている」も、社長の提案にのった自分の甘さに対して腹立たしさを感じている男の様子を表しており、誤りとは言えません。

 

しかし、「自分の価値観を見せつけているだけだったと捉え直し」は誤りです。

 

企画が倒れた今、男からすれば「芝居気たっぷり」だったとしても、不渡りや差しおさえなどがなく「潮流が変わらなければ」、企画は実現した可能性があります。

かつての社長が自分の趣味に対する熱意を語っていただけだったとしても、長年の趣味はそう簡単に変わらないものです。

社長も実現できるものなら実現したかったと思われます。

「価値観の見せつけ」と捉えるには根拠不足です。

選択肢2. 男の写真集を出すことに積極的になってくれる社長の誠意に心ひかれたが、他人の人生に関わる場面でも自分の善意に酔う自己顕示的なふるまいだったと捉え直し、社長の言動に振り回されたことを不愉快に感じている。

不適当です。

 

社長は鳥の姿を残したかったのであり、「男の写真集を出すことに積極的になってくれる社長の誠意」のような、男へ親切にする目的があったわけではありません。

 

男もお互いの利益のための契約と理解できていたため、かつての社長のふるまいを「芝居気たっぷり」とは思っていても、「自分の善意に酔う自己顕示的なふるまい」とは考えていません。

 

後半の「社長の言動に振り回されたことを不愉快に感じている」だけは誤りだとは言えません。

 

しかしそれ以外が誤りのため、不適当です。

選択肢3. 男と鳥の双方にとって記念になると言って写真集の提案をする社長の理念に魅力を感じたが、思ってもいない出まかせを言っているだけだったと捉え直し、社長の姿勢に幻惑されてしまったことを不愉快に感じている。

不適当です。

 

前半の「男と鳥の双方にとって記念になると言って写真集の提案をする社長の理念に魅力を感じた」と、後半の「社長の姿勢に幻惑されてしまったことを不愉快に感じている」は完全な誤りとは言い難いです。

 

しかしながら、「思ってもいない出まかせ」は誤りです。

 

「芝居気たっぷり」は「完全な嘘」とは異なります。

社長は鳥の観察を趣味としていたため、「海と鳥を残したい」とのせりふがすべて嘘とは言えません。

選択肢4. 鳥が姿を消しても写真によってその姿を伝えることができるという社長の前向きな考えに鼓舞されたが、会社の厳しい状況を隠す演技にすぎなかったと捉え直し、社長の焦りに気づけなかったことを不愉快に感じている。

不適当です。

 

前半の「鳥が姿を消しても写真によってその姿を伝えることができるという社長の前向きな考えに鼓舞された」は、本文の社長の「せめて鳥がいなくなっても姿だけは写真として残そう」という消極的な考えと矛盾します。

 

また「陽気に叫んだ」のは、一・二回目は写真集の打ち合わせをしていたように、企画段階ではやる気があったものと推測できます。

会社の状況が厳しくなったのは、男と写真集の企画を組んだ後でしょう。

そのため、社長のふるまいがはじめから「会社の厳しい状況を隠す演技にすぎなかった」というのは、下線部Dの「芝居」に引きずられすぎの解釈といえます。

 

後半の「社長の焦りに気づけなかったことを不愉快に感じている」も、今の男に「社長の焦りに気がついていれば」などの後悔があるわけではないため、誤りといえます。

選択肢5. 鳥や地域の自然について鳥のような動きまでしながら強い思い入れをみせて語る社長の姿勢に引き込まれたが、空疎でわざとらしい言動だったと捉え直し、社長の提案に同調してしまったことを不愉快に感じている。

適当です。

 

前半では下線部D以前で見せた社長の熱意を表しています。

 

「芝居」を「空疎」なもの、「せりふ」を「わざとらしい言動」と言い換えているのも意味として適当です。

 

後半の「社長の提案に同調してしまったことを不愉快に感じている」も、結果的には好ましくない社長の言動に一度は同意してしまった自分を腹立たしく思っているとの点で、正しいといえます。

まとめ

選択肢の前半、後半では大差が生まれにくい問題です。

「芝居気たっぷりのせりふ」をどう捉えるかによって、正答を選べるかが変わってきます。

 

ただし、どうして「不愉快に感じている」のかなどについては、社長の態度の変わりようと、その変遷への男の気持ちを理解している必要があります。

 

後に要約問題が控えていることを考えれば、正解できなくともある程度の深読みはしておきたい問題です。

 

時間がかかるようなら正答を選ぶのは後回しにしても、ある程度の深読みと一旦の回答を選んで先へ進みましょう。

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02

下線部Dの前後の文章から、男の心境がどう変化したのかを読み取るべき問題です。

 

本文「男はあわてて印税をあてにしてはいないこと、それより自分の写真集をもつことができたら倖(しあわ)せだといった。」という記述から、男が写真集を出すことに積極的な姿勢であることが読み取れます。

しかし、その後の「またしても一つの潮流がむきをかえただけのことだ。」という記述から期待したことに対しての後悔や失望が読み取れます。

つまり、正解に導くために必要な要素は①積極性→期待への失望・後悔が読み取れる選択肢であること。

②「芝居気たっぷり」という表現を言い換えた表現、例えば「わざとらしい」などの記述があることの2つです。

選択肢1. 写真集が人間だけでなく自然のためのものでもあることを説く社長のひたむきさに好感を持ったが、自分の価値観を見せつけているだけだったと捉え直し、社長の主張に同意してしまったことを不愉快に感じている。

写真集が人間だけでなく自然のためのものでもあることを説く社長のひたむきさに好感を持った」本文から読み取れません。

人間だけでなく」とありますが、男は自分のネガを集めた写真集を出したいと思っていたとしても、自身の写真集を出したいと思っていません。

また、②に相当する表現が選択肢中にありません。

 

よって、この選択肢は誤りです。

選択肢2. 男の写真集を出すことに積極的になってくれる社長の誠意に心ひかれたが、他人の人生に関わる場面でも自分の善意に酔う自己顕示的なふるまいだったと捉え直し、社長の言動に振り回されたことを不愉快に感じている。

他人の人生に関わる場面でも自分の善意に酔う自己顕示的なふるまいだった」本文から読み取れません。

自分の善意に酔う自己顕示的」という表現は、「芝居気たっぷり」の言い換えにはなりません。

 

よって、この選択肢は誤りです。

選択肢3. 男と鳥の双方にとって記念になると言って写真集の提案をする社長の理念に魅力を感じたが、思ってもいない出まかせを言っているだけだったと捉え直し、社長の姿勢に幻惑されてしまったことを不愉快に感じている。

思ってもいない出まかせを言っているだけだった」本文から読み取れません。実際、2回目の会見まで社長はのり気であったが、経営状況の悪化により、半ば叶わなかったことから出まかせではないことが分かります。

また、②に相当する表現が選択肢中にありません。

 

よって、この選択肢は誤りです。

選択肢4. 鳥が姿を消しても写真によってその姿を伝えることができるという社長の前向きな考えに鼓舞されたが、会社の厳しい状況を隠す演技にすぎなかったと捉え直し、社長の焦りに気づけなかったことを不愉快に感じている。

会社の厳しい状況を隠す演技にすぎなかった」が誤りです。会見の2回目までは社長がのり気だったことから、本文「写真集が出来たらその中に鳥も海も生きることになるんだよね。」と社長が発言した状況では、経営状況が悪化していたわけではないことが読み取れます

また、②に相当する表現が選択肢中にありません。

 

よって、この選択肢は誤りです。

選択肢5. 鳥や地域の自然について鳥のような動きまでしながら強い思い入れをみせて語る社長の姿勢に引き込まれたが、空疎でわざとらしい言動だったと捉え直し、社長の提案に同調してしまったことを不愉快に感じている。

鳥や地域の自然について鳥のような動きまでしながら強い思い入れをみせて語る社長の姿勢に引き込まれた」が期待。空疎でわざとらしい言動だった」が失望。期待→失望の構図になっています。また、「芝居気たっぷり」の言い換えになっています。

 

よって、この選択肢は正しいです。

 

 

まとめ

問題文「社長についての男の受け止め方はどのように変化したか」という記述から、下線部Dの前後の男の心情の変化に着目することが大切です。

選択肢を絞り切れない場合は、言い換え表現に注目するのも一つの解法だと思います。

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03

下線部D「なんという芝居気たっぷりのせりふだったろう、と男はにがにがしく回想した」の部分自体が大きなヒントになっています。

「たっぷり」「せりふ」という皮肉のこもったニュアンスから、男は社長の言動のわざとらしさに対して不快感を持ったことが分かり、その事実が反映されている選択肢が正解となります。

選択肢1. 写真集が人間だけでなく自然のためのものでもあることを説く社長のひたむきさに好感を持ったが、自分の価値観を見せつけているだけだったと捉え直し、社長の主張に同意してしまったことを不愉快に感じている。

社長は「あなたの写真集でもあり鳥たちの写真集でもあるわけだ。鳥と潟海(かたうみ)の記念碑、いや鳥のための墓標というべきだろうか」と言っていることから、「写真集が人間だけでなく自然のためのものでもある」の部分が本文と合致しない上、「自分の価値観を見せつけているだけだった」と断定できる根拠は文中に書かれていないため、この選択肢は誤りです。

 

選択肢2. 男の写真集を出すことに積極的になってくれる社長の誠意に心ひかれたが、他人の人生に関わる場面でも自分の善意に酔う自己顕示的なふるまいだったと捉え直し、社長の言動に振り回されたことを不愉快に感じている。

社長の芝居気たっぷりの言動は自分に酔っているかのように読み取れるため、一見すると本文と合致しているように見えますが、下線部Dより後の「よくあることだ、と男は思った。またしても一つの潮流がむきをかえただけのことだ」という一文に注目すると、男は社長の言動に振り回されたことに関してはそれほど不愉快に感じていないことが分かります。

 

したがって、この選択肢は誤りです。

選択肢3. 男と鳥の双方にとって記念になると言って写真集の提案をする社長の理念に魅力を感じたが、思ってもいない出まかせを言っているだけだったと捉え直し、社長の姿勢に幻惑されてしまったことを不愉快に感じている。

やや分かりづらいですが、「あなたの写真集でもあり鳥たちの写真集でもあるわけだ。鳥と潟海(かたうみ)の記念碑、いや鳥のための墓標というべきだろうか」という発言に注目すると、厳密には「鳥と潟海の記念碑」とは言っていますが「男にとって記念になる」とは言っていません。

 

また、「二回目の会見まで社長はのり気だった」ことや判型や紙の打ち合わせも行っていたことからも、写真集の話を持ち掛けたのは決して出まかせではなかったと判断できます。

 

したがって、この選択肢は誤りです。

選択肢4. 鳥が姿を消しても写真によってその姿を伝えることができるという社長の前向きな考えに鼓舞されたが、会社の厳しい状況を隠す演技にすぎなかったと捉え直し、社長の焦りに気づけなかったことを不愉快に感じている。

「二回目の会見まで社長はのり気だった」という文章から、写真集の話を持ち掛けた時点ではまだ会社は厳しい状況にはなっていなかったことが分かるため、この選択肢は誤りです。

選択肢5. 鳥や地域の自然について鳥のような動きまでしながら強い思い入れをみせて語る社長の姿勢に引き込まれたが、空疎でわざとらしい言動だったと捉え直し、社長の提案に同調してしまったことを不愉快に感じている。

鳥のような動きまでしながら」「空疎でわざとらしい言動」の部分が「芝居気たっぷりのせりふ」という表現と一致しているため、この選択肢が正解と判断できます。

まとめ

一見すると正解のように見えて迷ってしまう選択肢もあり、冷静な判断力が求められる問題でした。

 

本文と合致しているように見える選択肢が2つ以上あってどうしても選べない時は、下線部より後の文にも目を向けてみましょう。

万が一それでも正解を絞り込めない場合は、「本文から拾える根拠がより多い選択肢」を選ぶと良いでしょう。

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