大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和6年度(2024年度)本試験
問27 (第3問(古文) 問5)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和6年度(2024年度)本試験 問27(第3問(古文) 問5) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は、「車中雪(しゃちゅうのゆき)」という題で創作された作品の一節である(『草縁集(そうえんしゅう)』所収)。主人公が従者とともに桂(かつら)(京都市西京区の地名)にある別邸(本文では「院」)に向かう場面から始まる。これを読んで、後の問いに答えよ。

桂の院つくりそへ給ふものから、(ア)あからさまにも渡り給(たま)はざりしを、友待つ雪(注1)にもよほされてなむ、ゆくりなく思し立たす(注2)める。かうやうの御歩(あり)きには、源少将、藤式部をはじめて、今の世の有職(いうそく)と聞こゆる若人のかぎり、必ずしも召しまつはしたりしを、(イ)とみのことなりければ、かくとだにもほのめかし給はず、「ただ親しき家司(けいし)(注3)四人五人(よたりいつたり)して」とぞ思しおきて給ふ。
やがて御車引き出(い)でたるに、「空より花の」(注4)とa うち興じたりしも、めでゆくまにまにいつしかと散りうせぬるは、かくてやみぬとにやあらむ。「さるはいみじき出で消えにこそ」と、人々死に返り(注5)妬(ねた)がるを、「げにあへなく口惜し」と思せど、「さてb 引き返さむも人目悪(わろ)かめり。なほ法輪の八講(注6)にことよせて」と思しなりて、ひたやりに急がせ給ふほど、またもつつ闇(注7)に曇りみちて、ありしよりけに散り乱れたれば、道のほとりに御車たてさせつつ見給ふに、何がしの山、くれがしの河原も、ただ時の間にc 面(おも)変はりせり
かのしぶしぶなりし人々も、いといたう笑み曲げて、「これや小倉(をぐら)の峰(注8)ならまし」「それこそ梅津の渡(注9)りならめ」と、口々に定めあへるものから、松と竹とのけぢめをだに、とりはづしては違(たが)へぬべかめり。「あはれ、世に面白しとはかかるをや言ふならむかし。なほここにてを見栄(は)やさまし(注10)」とて、やがて下簾(したすだれ)(注11)かかげ給ひつつ、
 ① ここもまた月の中なる里ならし雪の光もよに似ざりけり
などd 興ぜさせ給ふほど、(ウ)かたちをかしげなる童(わらは)の水干(すいかん)着たるが、手を吹く吹く御あと尋(と)め来て、榻(しぢ)(注12)のもとにうずくまりつつ、「これ御車に」とて差し出でたるは、源少将よりの御消息なりけり。e 大夫(たいふ)とりつたへて奉るを見給ふに、「いつも後(おく)らかし給はぬを、かく、
X 白雪のふり捨てられしあたりには恨みのみこそ千重に積もれれ」
とあるを、ほほ笑み給ひて、畳紙(たたうがみ)に、
Y 尋め来やとゆきにしあとをつけつつも待つとは人の知らずやありけむ
やがてそこなる松を雪ながら折らせ給ひて、その枝に結びつけてぞたまはせたる。
やうやう暮れかかるほど、さばかり天霧(あまぎ)らひ(注13)たりしも、いつしかなごりなく晴れわたりて、名に負ふ里の月影はなやかに差し出でたるに、雪の光もいとどしく映えまさりつつ、天地(あめつち)のかぎり、白銀(しろかね)うちのべたらむがごとくきらめきわたりて、あやにまばゆき夜のさまなり。
院の預かり(注14)も出で来て、「かう渡らせ給ふとも知らざりつれば、とくも迎へ奉らざりしこと」など言ひつつ、頭(かしら)ももたげで、よろづに追従するあまりに、牛の額の雪かきはらふとては、軛(くびき)に触れて烏帽子(えぼし)を落とし、御車やるべき道清むとては、あたら雪をも踏みしだきつつ、足手の色を海老(えび)になして(注15)、桂風(かつらかぜ)を引き歩く。人々、「いまはとく引き入れてむ。かしこのさまもいとゆかしきを」とて、もろそそき(注16)にそそきあへるを、「げにも」とは思すものから、ここもなほ見過ぐしがたうて。

(注1)友待つ雪 ―― 後から降ってくる雪を待つかのように消え残っている雪。
(注2)思し立たす ―― 「す」はここでは尊敬の助動詞。
(注3)家司 ―― 邸(やしき)の事務を担当する者。後出の「大夫」はその一人。
(注4)空より花の ―― 『古今和歌集』の「冬ながら空より花の散りくるは雲のあなたは春にやあるらむ」という和歌をふまえた表現。
(注5)死に返り ―― とても強く。
(注6)法輪の八講 ―― 「法輪」は京都市西京区にある法輪寺。「八講」は『法華経』全八巻を講義して讃(たた)える法会。
(注7)つつ闇 ―― まっくら闇。
(注8)小倉の峰 ―― 京都市右京区にある小倉山。
(注9)梅津の渡り ―― 京都市右京区の名所。桂川左岸に位置する。
(注10)ここにてを見栄やさまし ―― ここで見て賞美しよう。
(注11)下簾 ―― 牛車(ぎっしゃ)の前後の簾(下図参照)の内にかける帳(とばり)。
(注12)榻 ―― 牛車から牛をとり放したとき、「軛(くびき)」を支える台(下図参照)。牛車に乗り降りする際に踏み台ともする。
(注13)天霧ひ ―― 「天霧らふ」は雲や霧などがかかって空が一面に曇るという意。
(注14)院の預かり ―― 桂の院の管理を任された人。
(注15)海老になして ―― 海老のように赤くして。
(注16)もろそそき ―― 「もろ」は一斉に、「そそく」はそわそわするという意。

和歌X・Yに関する説明として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
問題文の画像
  • 源少将は主人公の誘いを断ったことを気に病み、「白雪」が降り積もるように私への「恨み」が積もっているのでしょうね、という意味の和歌Xを贈った。
  • 源少将は和歌Xに「捨てられ」「恨み」という恋の歌によく使われる言葉を用いて主人公への恋情を訴えたため、主人公は意外な告白に思わず頬を緩めた。
  • 主人公は和歌Yに「待つ」という言葉を用いたのに合わせて、「待つ」の掛詞(かけことば)としてよく使われる「松」の枝とともに、源少将が待つ桂の院に返事を届けさせた。
  • 主人公は「ゆき」に「雪」と「行き」の意を掛けて、「雪に車の跡をつけながら進み、あなたを待っていたのですよ」という和歌Yを詠んで源少将に贈った。

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この過去問の解説 (3件)

01

和歌の解釈を考えるには、なぜ和歌が詠まれたのか、和歌が詠まれた状況を把握することが大切です。その上で、古語や文法に注意して訳を考えると良いでしょう。

 

Xの和歌は、直前で「いつも後らかし給はぬを、」とあり、「いつもあなたは私を付き添いに連れて後に残しなさらないのに」の意ですので、このあたりが解釈できていれば、続く和歌の意味も見当をつけることができます。

 

Yの歌は、Xに対する返歌であることや、掛詞の理解がポイントとなります。ここまでの本文の出来事を押さえ、矛盾のないよう解釈する必要があります。

選択肢1. 源少将は主人公の誘いを断ったことを気に病み、「白雪」が降り積もるように私への「恨み」が積もっているのでしょうね、という意味の和歌Xを贈った。

不適当です。

本文を正しく読めていれば、そもそも源少将は誘いを受けておらず、当然断ってもいないことが分かります。そのため、「誘いを断ったことを」という前提で説明しているこの選択肢は不適当です。

選択肢2. 源少将は和歌Xに「捨てられ」「恨み」という恋の歌によく使われる言葉を用いて主人公への恋情を訴えたため、主人公は意外な告白に思わず頬を緩めた。

不適当です。

源少将は桂の院に同行させてもらえなかったことを恨んでいるのであり、「恋情を訴え」て「告白」しているわけではありません。

選択肢3. 主人公は和歌Yに「待つ」という言葉を用いたのに合わせて、「待つ」の掛詞(かけことば)としてよく使われる「松」の枝とともに、源少将が待つ桂の院に返事を届けさせた。

不適当です。

桂の院は主人公が向かう先の邸宅のことです。源少将は後に残されたわけなので、桂の院で待っているとは考えられません。

選択肢4. 主人公は「ゆき」に「雪」と「行き」の意を掛けて、「雪に車の跡をつけながら進み、あなたを待っていたのですよ」という和歌Yを詠んで源少将に贈った。

これが最も適当です。

Yの修辞の説明として正しいことを言っていますし、本文の内容にも沿っています。

同行させてもらえなかった恨みを詠んだXに対し、「あなたが尋ねて来る」ことを待っていた、とYは返しているのです。

まとめ

和歌の解釈は、それまでの状況の理解が必要ですので、本文全体の流れを押さえる必要があり難しいかもしれません。直前の内容や表現を手がかりに、描写と矛盾がない選択肢を選べると良いでしょう。

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02

和歌は、解釈の余地が大きい形式のため本文の記述と併せて考えることが不可欠となります。

和歌の表現技法とともに具体的な情報が書かれた箇所にも注目しましょう。

選択肢1. 源少将は主人公の誘いを断ったことを気に病み、「白雪」が降り積もるように私への「恨み」が積もっているのでしょうね、という意味の和歌Xを贈った。

誤りです。

源少将は誘いを断ったのではなく、主人公が急に外出したため対応ができませんでした。

選択肢2. 源少将は和歌Xに「捨てられ」「恨み」という恋の歌によく使われる言葉を用いて主人公への恋情を訴えたため、主人公は意外な告白に思わず頬を緩めた。

誤りです。

「捨てられ」、「恨み」は恋の歌によく使われる表現ですがそれだけで恋情と決めつけるのは早計です。

選択肢3. 主人公は和歌Yに「待つ」という言葉を用いたのに合わせて、「待つ」の掛詞(かけことば)としてよく使われる「松」の枝とともに、源少将が待つ桂の院に返事を届けさせた。

誤りです。

源少将が桂の院で待っているとは書かれていません。

選択肢4. 主人公は「ゆき」に「雪」と「行き」の意を掛けて、「雪に車の跡をつけながら進み、あなたを待っていたのですよ」という和歌Yを詠んで源少将に贈った。

適当です。

主人公は、源少将からの自分を連れて行かなかったことへの恨みを雪と重ねて表現した和歌を微笑ましく思い、自らも雪を題材にしながら和歌を返しました。

「ゆき」を雪、行きどちらに解釈しても文意が通ることから掛詞を用いた和歌であることが分かります。

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03

最も適当なのは、『主人公は「ゆき」に「雪」と「行き」の意を掛けて、「雪に車の跡をつけながら進み、あなたを待っていたのですよ」という和歌Yを詠んで源少将に贈った。』です。
返歌Yの「ゆきにしあとをつけつつも」は、「雪」と「行き」の掛詞と雪上の“跡(足跡・轍)”を生かした表現で、「この雪に残る跡をたどって来なさい。私は待っている」という呼びかけになっています。

選択肢1. 源少将は主人公の誘いを断ったことを気に病み、「白雪」が降り積もるように私への「恨み」が積もっているのでしょうね、という意味の和歌Xを贈った。

源少将は誘いを断っていません。今回は主人公が急な外出で誰にも知らせず出発したため、源少将は「置いていかれた」側です。和歌Xの「ふり捨てられし」「恨みが積もる」は、自分が外された恨みを雪にたとえたもので、誘いを断った悔いではありません。

選択肢2. 源少将は和歌Xに「捨てられ」「恨み」という恋の歌によく使われる言葉を用いて主人公への恋情を訴えたため、主人公は意外な告白に思わず頬を緩めた。

「恨み」は恋の歌でも用いられますが、ここでは突然連れ出してもらえなかった悔しさを詠むのが自然です。文脈は外出に同道できなかった嘆きで、恋の告白と見るのは行き過ぎです。

選択肢3. 主人公は和歌Yに「待つ」という言葉を用いたのに合わせて、「待つ」の掛詞(かけことば)としてよく使われる「松」の枝とともに、源少将が待つ桂の院に返事を届けさせた。

返歌の後、主人公が松の枝に結んで返事を持たせた点は文中の描写どおりで、「待つ」↔「松」の取り合わせも和歌の常套です。
ただし本文では使者が雪の跡をたどって車を追ってきており、その場で返書を託しています。「源少将が待つ桂の院に」と場所を限定する読みは言い過ぎです。

選択肢4. 主人公は「ゆき」に「雪」と「行き」の意を掛けて、「雪に車の跡をつけながら進み、あなたを待っていたのですよ」という和歌Yを詠んで源少将に贈った。

これが適切です。「ゆきにしあと」は「行きにし跡(先に行った者の跡)」と「雪にし跡(雪についた跡)」の掛詞と読め、「その跡をつけて尋ねて来なさい。私は待っている」という含みになります。場面の雪・轍・追い使の動きとも合致します。

まとめ

和歌Xは、置いていかれた源少将の恨みを雪の「積もる」に重ねた嘆きです。これに対し主人公の和歌Yは、雪と行きの掛詞雪上の跡を巧みに用いて、「跡をたどって来なさい、私は待っている」と応じます。さらに松の枝に返歌を結ぶしぐさで、言葉(待つ)と物(松)を響き合わせる古典的な趣向が添えられています。

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