大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)本試験
問29 (第4問(古文) 問7)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)本試験 問29(第4問(古文) 問7) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は、いずれも物語の一節で、【文章Ⅰ】は『在明(ありあけ)の別(わかれ)』、【文章Ⅱ】は『源氏物語』若菜下の巻である。これらを読んで、後の問いに答えよ。

【文章Ⅰ】
右大臣の娘である大君(おおいぎみ)は、夫である左大臣の子を妊娠している。一方、右大臣の妹である女君は、かつて契りを交わした左大臣との関係が途絶え、苦悩を深めていた。そのころ、大君が病になり命が危うくなったため、僧が呼ばれて祈禱(きとう)をすることになった。

 (注1)山の座主(ざす)、慌て参りたまへり。御枕上に呼び入れきこえて、右の大臣(おとど)、御手をすりて、仏にもの申すやうに、「ただ、いまひとたび、目を見合はせたまへ。あまたはべる中に、何の契りにか、(ア)いはけなくよりたぐひなく思ひそめはべりにし(注2)闇を、さらに(注3)晴るけはべらぬ」と、泣きまどひたまふに、いと静かに数珠(ずず)押し揉(も)みたまひて、「令百由旬内(りゃうひゃくゆじゅんない)、無諸衰患(むしょすいぐゑん)」と読みaたまへる御声、はるかに澄みのぼる心地するに、変はりゆく御けしき、いささか直りて、目をわづかに見開(あ)けたまへり。あるかぎり、(イ)なかなか(注5)手まどひをして、「誦経(ずきゃう)よ、何よ」とまどひたまふに、なほ心ある人とも見えず、御かたちも変はりたるやうにて、その人とも見えたまはず。いとにほひやかにけ近きものから、妬(ねた)げなるまみのけしき、左の大臣はさやうにも分(わ)きたまはず、父殿ぞ、いとあやしう、「思ひかけぬ人にも似たまへるかな」と心得ず思(おぼ)さるるに、うちみじろきて、
 さまざまに朝夕こがす胸のうちをいづれのかたにしばし晴るけむ
とのたまふけはひ、いささかその人にもあらず、違(たが)ふべくもあらぬを、父大臣のみぞ、かへすがへす「あやし」と傾(かたぶ)かれたまふ。
 さて、わが御心おはせねば、また消え入りつつ、さらにとまるべくもおはせぬを、「今はけしうbおはせじ」とおし静めつつ、いたく嗄(か)れたる御声やめて、薬師(やくし)の呪(ず)をかへすがへす読みたまふに、御もののけ現れ出(い)でて、小さき童(わらは)に(注7)駆り移されぬ。
 (ウ)呼ばひののしる声に、今ぞ御心出で来るにや、人々のまもりcきこゆるを、「はしたなし」と思して御衣(ぞ)を引きふたぎたまふ。

(注1)山の座主 ――― 比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)の最高位にある僧。
(注2)闇 ――― 子を思うあまりに分別を失う親心のたとえ。「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」(『後撰(ごせん)和歌集』)による。
(注3)晴るけ ――― 下二段活用動詞「晴るく」の連用形。
(注4)令百由旬内、無諸衰患 ――― 『法華経(ほけきょう)』の一節。周囲から衰えや患いをなくすという内容。
(注5)手まどひ ――― 慌てふためく様子。
(注6)薬師の呪 ――― 薬師如来の力によって病気を治す呪文。
(注7)駆り移されぬ ――― 「駆り移す」は、もののけを病人から離して他の人に乗り移らせること。

【文章Ⅱ】
光源氏(本文では「院」)は、病になり生死の境をさまよう妻を救おうとしている。その病には、かつての光源氏の恋人であり、今は亡き女性が関わっていた。

 院も、「ただ、いまひとたび、目を見合はせたまへ。いとあへなく限りなりつらむほどをだにえ見ずなりにけることの悔しく悲しきを」と思しまどへるさま、とまりたまふべきにもあらぬを見たてまつる心地ども、ただ推しはかるべし。いみじき御心のうちを仏も見たてまつりたまふにや、月ごろさらに現れ出で来(こ)ぬもののけ、小さき童に移りて呼ばひののしるほどに、やうやう生き出でたまふに、うれしくもゆゆしくも思し騒がる。
 いみじく(注8)調(てう)ぜられて、「人はみな去りね。院一(ひと)ところの御耳に聞こえむ。おのれを、月ごろ、調じわびさせたまふが情けなくつらければ、同じくは思し知らせむと思ひつれど、さすがに命もたふまじく身をくだきて思しまどふを見たてまつれば、今こそかくいみじき身を受けたれ、いにしへの心の残りてこそかくまでも参り来たるなれば、ものの心苦しさをえ見過ぐさで、つひに現れぬること。さらに知られじと思ひつるものを」とて、髪を振りかけて泣くけはひ、ただ、(注9)昔見たまひしもののけのさまと見えたり。

(注8)調ぜられて ――― 「調ず」は、ここでは祈禱によって退散させようとすること。
(注9)昔見たまひしもののけ ――― このもののけは、以前にも光源氏の前に現れていた。

Aさんのクラスでは【文章Ⅰ】を読んだ後、それが【文章Ⅱ】の影響を受けて作られたことを学んだ。次に示すのは、二つの文章の共通点と相違点について、生徒たちがグループ内で話し合っている授業の様子である。これを読み、後の問いに答えよ。

生徒A:【文章Ⅰ】も【文章Ⅱ】も、もののけとそれに苦しめられている女性が登場しています。他に、「ただ、いまひとたび、目を見合はせたまへ」という言葉の一致など、表現が共通している点も見られます。
生徒B:そうですね。それに、「小さき童」が登場している点も共通しています。病の原因であるもののけを「小さき童」に移すことで、病人を治療する方法があったようですよ。
生徒C:たしかに多くの共通点がありますね。次に、【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】の相違点についても考えてみましょう。
生徒D:【文章Ⅱ】では、童に移されたもののけが( X )と言っています。
生徒E:自分の思いを伝えようとしているのですね。では、【文章Ⅰ】のもののけはどのような行動をとっているでしょうか。
生徒A:もののけは和歌を詠んでいるのではないですか。
生徒B:あれ、この和歌は「目をわづかに見開け」た大君が詠んだものではないのですか。
生徒C:和歌の表現から考えてみませんか。「朝夕こがす胸のうち」や「いづれのかたにしばし晴るけむ」とありますよ。だから、これは( Y )と考えられます。
生徒D:なるほど、そのとおりですね。和歌の前後も考え合わせると、【文章Ⅰ】では、( Z )。
生徒E:【文章Ⅱ】に比べると、【文章Ⅰ】ではもののけをめぐる状況がずいぶん違っていますね。【文章Ⅰ】は過去の作品を取り入れながらも、独自の場面を作り出したと言えそうです。

空欄( Z )に入る発言として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
問題文の画像
  • 大君の顔つきが穏やかになって、右大臣は大君が一命をとりとめたと思っているけれど、左大臣はもののけがまだ取りついていることに気づいていますね。大君はもののけから解放されず、死を覚悟して出家を決意しています
  • 大君の顔つきが苦しみに満ちたものになって、これほどまでに大君を憎むのは女君の仕業だと左大臣は気づいていますね。大君はもののけから解放されずに亡くなってしまい、右大臣は着物を引きかぶって悲しみに暮れています
  • 大君の顔つきが他の人に重なって見えて、右大臣と左大臣はそれが誰なのか怪しんでいるけれど、女君だとは気づいていないですね。大君はもののけから解放されて我に返り、苦しむ姿を皆に見られたくなかったと思っています
  • 大君の顔つきがまるで別人のようになって、左大臣は気づいていないけれど、右大臣はその様子がまさしく女君のものだと気づいていますね。大君はもののけから解放された後、正気を取り戻して気恥ずかしそうにしています

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (3件)

01

生徒Dの言う通り、
【文章Ⅰ】の和歌の前後に注目しましょう。

選択肢1. 大君の顔つきが穏やかになって、右大臣は大君が一命をとりとめたと思っているけれど、左大臣はもののけがまだ取りついていることに気づいていますね。大君はもののけから解放されず、死を覚悟して出家を決意しています

「死を覚悟して出家を決意しています」という部分が不適です。
出家を決意するという記述は本文にはありません。

選択肢2. 大君の顔つきが苦しみに満ちたものになって、これほどまでに大君を憎むのは女君の仕業だと左大臣は気づいていますね。大君はもののけから解放されずに亡くなってしまい、右大臣は着物を引きかぶって悲しみに暮れています

「大君はもののけから解放されずに亡くなってしまい」という部分が不適です。
「御もののけ現れ出でて、小さき童に駆り移されぬ」とあることから、
もののけから解放されていることが分かります。

選択肢3. 大君の顔つきが他の人に重なって見えて、右大臣と左大臣はそれが誰なのか怪しんでいるけれど、女君だとは気づいていないですね。大君はもののけから解放されて我に返り、苦しむ姿を皆に見られたくなかったと思っています

「右大臣と左大臣はそれが誰なのか怪しんでいる」という部分が不適です。
「父大臣のみぞ、かへすがへす「あやし」と傾かれたまふ」とあることから、
怪しんでいたのは右大臣のみであることが分かります。

選択肢4. 大君の顔つきがまるで別人のようになって、左大臣は気づいていないけれど、右大臣はその様子がまさしく女君のものだと気づいていますね。大君はもののけから解放された後、正気を取り戻して気恥ずかしそうにしています

適当な選択肢です。

まとめ

消去法で本文と違う記述や書かれていないことを含む選択肢を除いていきましょう。

参考になった数0

02

この前の問題ですでに一部解説してしまいましたが、和歌の前の部分に『いとにほひやかにけ近きものから、妬げなるまみのけしき、左の大臣はさやうにも分きたまはず父殿ぞ、いとあやしう、「思ひかけぬ人にも似たまへるかな」と心得ず思さるるに』とあります。

上手く訳せなかったとしても、左大臣の方は「分きたまは」とあって、右大臣(父殿)の方は「〜心得ず思さるる」とあるわけですから、両者の考えが何か違いそうだ、ということは読み取れるのではないでしょうか。

 

また、『人々のまもりきこゆるを、「はしたなし」と思して御衣を引きふたぎたまふ」の部分も敬語の方向を問う問題になっていたところです。その際に確認しましたが「まもる」は「じっと見つめる、見守る」という意味になります。話をある程度まで読み取れていれば、もののけが離れて元気になりましたが、それまで「人々が見守っていた人、(ちょっと言い換えれば)人々に見守られていた人」は大君しかいないとわかるはずです。

とすると、直後の「はしたなし」も大君の言葉とするのが適当で、はしたなしは「どっちつかずで落ち着かない、決まりがわるい」などの意味ですから、答えは「大君の顔つきがまるで別人のようになって、左大臣は気づいていないけれど、右大臣はその様子がまさしく女君のものだと気づいていますね。大君はもののけから解放された後、正気を取り戻して気恥ずかしそうにしています」となります。

選択肢1. 大君の顔つきが穏やかになって、右大臣は大君が一命をとりとめたと思っているけれど、左大臣はもののけがまだ取りついていることに気づいていますね。大君はもののけから解放されず、死を覚悟して出家を決意しています

左大臣はもののけの正体に気づいていませんでした。また、大君がもののけから解放されているかどうかが読み取れなかったとしても、その後の「出家を決意」というのは流石に本文に書いていないとわかってほしいところです。ともかく、この選択肢は以上の点から誤りです。

選択肢2. 大君の顔つきが苦しみに満ちたものになって、これほどまでに大君を憎むのは女君の仕業だと左大臣は気づいていますね。大君はもののけから解放されずに亡くなってしまい、右大臣は着物を引きかぶって悲しみに暮れています

左大臣は気づいていません。また、大君を亡くなってしまったと解すると、前の敬語の問題もおそらく間違いの選択肢を選んでしまっているかと思います。敬語の方向、特に誰への敬意かを考えることは文の主語や補語を冷静に考えることになり、それが文の内容を捉える上で非常に役立ちます。この問題もしくは敬語の方向の問題ができなかった方は急ぎ敬語の方向を判別する練習をして、習得しましょう。

選択肢3. 大君の顔つきが他の人に重なって見えて、右大臣と左大臣はそれが誰なのか怪しんでいるけれど、女君だとは気づいていないですね。大君はもののけから解放されて我に返り、苦しむ姿を皆に見られたくなかったと思っています

上の解説にも書きましたが、「右大臣と左大臣はそれが誰なのか怪しんでいるけれど」というのは誤りです。怪しむという動作がわからなくても、右大臣と左大臣が同じ動作をしているというのはどこかおかしい、と気づければこの選択肢は回避できたかと思います。

まとめ

この年の共通テストの古文はやや簡単(各予備校会社なども「易化」と評価しているところが多いようです)ですが、それは使われている単語のレベルがやや易しくなっている、というところに由来していると思います。文法の側面では相変わらずで、基本的ですがしかし絶対に忘れてはいけない定番を手堅く抑えているといった印象で、この問題は単語の力が多少及ばなくとも、そうした文法知識を動員すれば解けるはずです。逆に言えば、この問題で、特に選択肢の1、2番を選んで誤ってしまった方は、今一度基本的な文法を実際の文章の中で速やかに使えるように練習をしましょう。

参考になった数0

03

【文章Ⅰ】の内容を正確に理解できているかが問われる問題です。

病に苦しむ大君の様子を見た右大臣と左大臣の反応(右大臣は自身の妹である女君の面影を感じ取って不思議に思っている。左大臣は何も分かっていない様子)を根拠に正誤を判断することもできますが、大君の様子に着目した方が、参照すべき文章がシンプルなので効率的に解答できます。

 

・大君はもののけから解放された

(根拠となる文:御もののけ現れ出でて、小さき童に駆り移されぬ

・正気に戻った大君は、人々に見守られていることに気付いて気恥ずかしくなった。

(根拠となる文:呼ばひののしる声に、今ぞ御心出で来るにや、人々のまもりきこゆるを、「はしたなし」と思して御衣を引きふたぎたまふ

 

上記をふまえると、「大君の顔つきがまるで別人のようになって、左大臣は気づいていないけれど、右大臣はその様子がまさしく女君のものだと気づいていますね。大君はもののけから解放された後、正気を取り戻して気恥ずかしそうにしています」が正解となります。

参考になった数0