大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)本試験
問28 (第4問(古文) 問6)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)本試験 問28(第4問(古文) 問6) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は、いずれも物語の一節で、【文章Ⅰ】は『在明(ありあけ)の別(わかれ)』、【文章Ⅱ】は『源氏物語』若菜下の巻である。これらを読んで、後の問いに答えよ。

【文章Ⅰ】
右大臣の娘である大君(おおいぎみ)は、夫である左大臣の子を妊娠している。一方、右大臣の妹である女君は、かつて契りを交わした左大臣との関係が途絶え、苦悩を深めていた。そのころ、大君が病になり命が危うくなったため、僧が呼ばれて祈禱(きとう)をすることになった。

 (注1)山の座主(ざす)、慌て参りたまへり。御枕上に呼び入れきこえて、右の大臣(おとど)、御手をすりて、仏にもの申すやうに、「ただ、いまひとたび、目を見合はせたまへ。あまたはべる中に、何の契りにか、(ア)いはけなくよりたぐひなく思ひそめはべりにし(注2)闇を、さらに(注3)晴るけはべらぬ」と、泣きまどひたまふに、いと静かに数珠(ずず)押し揉(も)みたまひて、「令百由旬内(りゃうひゃくゆじゅんない)、無諸衰患(むしょすいぐゑん)」と読みaたまへる御声、はるかに澄みのぼる心地するに、変はりゆく御けしき、いささか直りて、目をわづかに見開(あ)けたまへり。あるかぎり、(イ)なかなか(注5)手まどひをして、「誦経(ずきゃう)よ、何よ」とまどひたまふに、なほ心ある人とも見えず、御かたちも変はりたるやうにて、その人とも見えたまはず。いとにほひやかにけ近きものから、妬(ねた)げなるまみのけしき、左の大臣はさやうにも分(わ)きたまはず、父殿ぞ、いとあやしう、「思ひかけぬ人にも似たまへるかな」と心得ず思(おぼ)さるるに、うちみじろきて、
 さまざまに朝夕こがす胸のうちをいづれのかたにしばし晴るけむ
とのたまふけはひ、いささかその人にもあらず、違(たが)ふべくもあらぬを、父大臣のみぞ、かへすがへす「あやし」と傾(かたぶ)かれたまふ。
 さて、わが御心おはせねば、また消え入りつつ、さらにとまるべくもおはせぬを、「今はけしうbおはせじ」とおし静めつつ、いたく嗄(か)れたる御声やめて、薬師(やくし)の呪(ず)をかへすがへす読みたまふに、御もののけ現れ出(い)でて、小さき童(わらは)に(注7)駆り移されぬ。
 (ウ)呼ばひののしる声に、今ぞ御心出で来るにや、人々のまもりcきこゆるを、「はしたなし」と思して御衣(ぞ)を引きふたぎたまふ。

(注1)山の座主 ――― 比叡山延暦寺(ひえいざんえんりゃくじ)の最高位にある僧。
(注2)闇 ――― 子を思うあまりに分別を失う親心のたとえ。「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」(『後撰(ごせん)和歌集』)による。
(注3)晴るけ ――― 下二段活用動詞「晴るく」の連用形。
(注4)令百由旬内、無諸衰患 ――― 『法華経(ほけきょう)』の一節。周囲から衰えや患いをなくすという内容。
(注5)手まどひ ――― 慌てふためく様子。
(注6)薬師の呪 ――― 薬師如来の力によって病気を治す呪文。
(注7)駆り移されぬ ――― 「駆り移す」は、もののけを病人から離して他の人に乗り移らせること。

【文章Ⅱ】
光源氏(本文では「院」)は、病になり生死の境をさまよう妻を救おうとしている。その病には、かつての光源氏の恋人であり、今は亡き女性が関わっていた。

 院も、「ただ、いまひとたび、目を見合はせたまへ。いとあへなく限りなりつらむほどをだにえ見ずなりにけることの悔しく悲しきを」と思しまどへるさま、とまりたまふべきにもあらぬを見たてまつる心地ども、ただ推しはかるべし。いみじき御心のうちを仏も見たてまつりたまふにや、月ごろさらに現れ出で来(こ)ぬもののけ、小さき童に移りて呼ばひののしるほどに、やうやう生き出でたまふに、うれしくもゆゆしくも思し騒がる。
 いみじく(注8)調(てう)ぜられて、「人はみな去りね。院一(ひと)ところの御耳に聞こえむ。おのれを、月ごろ、調じわびさせたまふが情けなくつらければ、同じくは思し知らせむと思ひつれど、さすがに命もたふまじく身をくだきて思しまどふを見たてまつれば、今こそかくいみじき身を受けたれ、いにしへの心の残りてこそかくまでも参り来たるなれば、ものの心苦しさをえ見過ぐさで、つひに現れぬること。さらに知られじと思ひつるものを」とて、髪を振りかけて泣くけはひ、ただ、(注9)昔見たまひしもののけのさまと見えたり。

(注8)調ぜられて ――― 「調ず」は、ここでは祈禱によって退散させようとすること。
(注9)昔見たまひしもののけ ――― このもののけは、以前にも光源氏の前に現れていた。

Aさんのクラスでは【文章Ⅰ】を読んだ後、それが【文章Ⅱ】の影響を受けて作られたことを学んだ。次に示すのは、二つの文章の共通点と相違点について、生徒たちがグループ内で話し合っている授業の様子である。これを読み、後の問いに答えよ。

生徒A:【文章Ⅰ】も【文章Ⅱ】も、もののけとそれに苦しめられている女性が登場しています。他に、「ただ、いまひとたび、目を見合はせたまへ」という言葉の一致など、表現が共通している点も見られます。
生徒B:そうですね。それに、「小さき童」が登場している点も共通しています。病の原因であるもののけを「小さき童」に移すことで、病人を治療する方法があったようですよ。
生徒C:たしかに多くの共通点がありますね。次に、【文章Ⅰ】と【文章Ⅱ】の相違点についても考えてみましょう。
生徒D:【文章Ⅱ】では、童に移されたもののけが( X )と言っています。
生徒E:自分の思いを伝えようとしているのですね。では、【文章Ⅰ】のもののけはどのような行動をとっているでしょうか。
生徒A:もののけは和歌を詠んでいるのではないですか。
生徒B:あれ、この和歌は「目をわづかに見開け」た大君が詠んだものではないのですか。
生徒C:和歌の表現から考えてみませんか。「朝夕こがす胸のうち」や「いづれのかたにしばし晴るけむ」とありますよ。だから、これは( Y )と考えられます。
生徒D:なるほど、そのとおりですね。和歌の前後も考え合わせると、【文章Ⅰ】では、( Z )。
生徒E:【文章Ⅱ】に比べると、【文章Ⅰ】ではもののけをめぐる状況がずいぶん違っていますね。【文章Ⅰ】は過去の作品を取り入れながらも、独自の場面を作り出したと言えそうです。

空欄( Y )に入る発言として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
問題文の画像
  • もののけの和歌で、退治される無念を詠んでいて、これ以上の祈禱はやめるよう頼んでいる
  • もののけの和歌で、激しい嫉妬によるつらさを詠んでいて、それをぶつける先を求めている
  • 大君の和歌で、左大臣への愛情を詠んでいて、その思いをもののけに分からせようとしている
  • 大君の和歌で、熱にうなされる苦痛を詠んでいて、その原因が明らかになることを望んでいる

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この過去問の解説 (3件)

01

さまざまに朝夕こがす胸のうちをいづれのかたにしばし晴るけむの直前に、
「いささかその人にもあらず、違ふべくもあらぬを、父大臣のみぞ、かへすがへす「あやし」と傾かれたまふ」とあることから、
詠んだのは大君ではないと疑っていることが推測できます。
そのため、
これはもののけが読んだ和歌です。

 

生徒の話し合いでは、
この和歌の「朝夕こがす胸のうち」や「いづれのかたにしばし晴るけむ」という部分に注目しているため、
そこから分かる内容を選択肢と比較して推測します。

選択肢1. もののけの和歌で、退治される無念を詠んでいて、これ以上の祈禱はやめるよう頼んでいる

「朝夕こがす」という表現は「退治される無念」とは解釈しにくいです。
「いづれのかたにしばし晴るけむ」も「これ以上の祈禱はやめるよう頼んでいる」と思えるような表現ではありません。
よって不適です。

選択肢2. もののけの和歌で、激しい嫉妬によるつらさを詠んでいて、それをぶつける先を求めている

「こがす」は切ない思いや苦悩を意味するため、
嫉妬によるつらさを表すと考えられます。
「朝夕」はその思いが一日中あることを示しており、
あわせて「激しい嫉妬によるつらさ」を表していると考えられます。


「いづれ」は「どれ」などという意味があり、
「晴るけむ」も恨みを晴らすなどに近い意味であると考えると、
「それをぶつける先を求めている」と解釈することができます。
よって適当な選択肢です。

選択肢3. 大君の和歌で、左大臣への愛情を詠んでいて、その思いをもののけに分からせようとしている

大君の和歌ではなく、
もののけの和歌です。
よって不適です。

選択肢4. 大君の和歌で、熱にうなされる苦痛を詠んでいて、その原因が明らかになることを望んでいる

大君の和歌ではなく、
もののけの和歌です。
よって不適です。

まとめ

和歌の言葉からどう解釈すれば選択肢のような意味になるのかを考え、
納得できるものを選びましょう。

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02

「さまざまに朝夕こがす胸のうちをいづれのかたにしばし晴るけむ」は「朝夕こがす胸のうち」や「しばし晴るけむ」などから、嫉妬の心に胸を焦がす様子や、「どこにぶつけて晴らしていたのだろう」を嫉妬の心に悩む様子などが見てとれるかと思います。

このほかにも、訳は少し難しいかもしれませんが、和歌の前の部分には『いとにほひやかにけ近きものから、妬げなるまみのけしき、左の大臣はさやうにも分きたまはず、父殿ぞ、いとあやしう、「思ひかけぬ人にも似たまへるかな」と心得ず思さるるに』とあります。取り憑かれた大君は妬んでいるような目つきで、父の右大臣のみが不思議に思い「思いかけない人に似ていらっしゃるなあ」(まさか右大臣自身の妹とは気づかなかったでしょうが・・・)と思っているわけです。ここから右大臣の妹で、最近は左大臣からの愛情を受けていない女君の生き霊が乗り移っている、とさらに推測することができます。

 

よって答えは「もののけの和歌で、激しい嫉妬によるつらさを詠んでいて、それをぶつける先を求めている」となります。

選択肢1. もののけの和歌で、退治される無念を詠んでいて、これ以上の祈禱はやめるよう頼んでいる

「退治される無念」は本文中のどこにも書いておらず、和歌からも読み取れません。よって不適です。

選択肢3. 大君の和歌で、左大臣への愛情を詠んでいて、その思いをもののけに分からせようとしている

この和歌の内容から「大君の和歌」と解してしまうのは誤りです。和歌は前後の文脈も踏まえないと読みづらいものではありますが、諦めずに一単語でもわかる部分を探しましょう。

選択肢4. 大君の和歌で、熱にうなされる苦痛を詠んでいて、その原因が明らかになることを望んでいる

「大君の和歌」と解している時点で誤りです。

まとめ

和歌の解釈は言葉が少ないために前後の文脈も踏まえて読む、つまり問題を解く上で、考えて訳すべき文が増えるという意味では厄介ですが、しかし結局は地の文と同じ、単語・文法を駆使して読解していくだけです。特に今回はそこまで難しい単語は和歌の中に使われていなかったので、単語単語を訳すだけでも解釈はある程度できたのではないでしょうか。

わからない部分がいくつもあるとつい面倒くさくなり諦めたくなってしまいがちですが、そこで踏ん張ることが肝要です。読める部分を丹念に把握して、一部分だけでもいいのでわかる内容から解釈を考えましょう。

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03

文章全体の流れから、大君の病はもののけに取り憑かれたことが原因であることを読み取れたでしょうか。この点をふまえると、

 

さまざまに朝夕こがす胸のうちをいづれのかたにしばし晴るけむ

 

この和歌は、もののけが大君の口を介して詠んだ歌であることが分かるはずです。

したがって、この時点で正解は「もののけの和歌」と説明している選択肢2つに絞られます。

 

さらに、和歌の中の「いづれのかたに」という言葉に着目すると、想い焦がれる苦しい胸の内をどこにぶつけたら晴れるのだろうか、と嘆いている歌であると読み取れます。

 

したがって、正解は「もののけの和歌で、激しい嫉妬によるつらさを詠んでいて、それをぶつける先を求めている」となります。

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