大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問22 (第3問(古文) 問2)
問題文
次の文章は源俊頼(としより)が著した『俊頼髄脳(としよりずいのう)』の一節で、殿上人たちが、皇后寛子のために、寛子の父・藤原頼通の邸内で船遊びをしようとするところから始まる。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に番号を付してある。
[1] 宮司(みやづかさ)(注1)ども集まりて、船をばいかがすべき、紅葉(もみぢ)を多くとりにやりて、船の屋形にして、船(ふな)さし(注2)は侍(さぶらひ)のa 若からむをさしたりければ、俄(にはか)に狩袴(かりばかま)染めなどして(注3)きらめきけり。その日になりて、人々、皆参り集まりぬ。「御船はまうけたりや」と尋ねられければ、「皆まうけて侍り」と申して、その期(ご)になりて、島がくれ(注4)より漕(こ)ぎ出(い)でたるを見れば、なにとなく、ひた照(て)りなる船を二つ、装束(さうぞ)き出でたるけしき、いとをかしかりけり。
[2] 人々、皆乗り分かれて、管絃(くわんげん)の具ども、御前より申し出だして(注5)、そのことする人々、前におきて、ア やうやうさしまはす程に、南の普賢堂に、宇治の僧正(注6)、僧都(そうづ)の君と申しける時、御修法(みずほふ)しておはしけるに、かかることありとて、もろもろの僧たち、大人、若き、集まりて、庭にゐなみたり。童部(わらはべ)、供(とも)法師にいたるまで、繡花(しうくわ)(注7)装束きて、さし退(の)きつつ群がれゐたり。
[3] その中に、良暹(りやうぜん)といへる歌よみのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて(注8)、平(ひら)がりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「b さに侍り」と申しければ、「あれ、船に召して乗せて連歌(れんが)(注9)などせさせむは、いかがあるべき」と、いま一つの船の人々に申しあはせければ、「いかが。あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかなとや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら連歌などはせさせてむなど定めて、近う漕ぎよせて、「良暹、さりぬべからむ連歌などして参らせよ」と、人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとてc まうけたりけるにや、聞きけるままに程もなくかたはらの僧にものを言ひければ、その僧、イ ことごとしく歩みよりて、
「もみぢ葉のこがれて見ゆる御船(みふね)かな
と申し侍るなり」と申しかけて帰りぬ。
[4] 人々、これを聞きて、船々に聞かせて、付けむとしけるが遅かりければ、船を漕ぐともなくて、やうやう築島(つくじま)をめぐりて、一めぐりの程に、付けて言はむとしけるに、え付けざりければ、むなしく過ぎにけり。「いかに」「遅し」と、たがひに船々あらそひて、二(ふた)めぐりになりにけり。なほ、え付けざりければ、船を漕がで、島のかくれにて、「ウ かへすがへすもわろきことなり、これをd 今まで付けぬは。日はみな暮れぬ。いかがせむずる」と、今は、付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆く程に、何事もe 覚えずなりぬ。
[5] ことごとしく管絃の物の具申しおろして船に乗せたりけるも、いささか、かきならす人もなくてやみにけり。かく言ひ沙汰する程に、普賢堂の前にそこばく多かりつる人、皆立ちにけり。人々、船よりおりて、御前にて遊ばむなど思ひけれど、このことにたがひて、皆逃げておのおの失(う)せにけり。宮司、まうけしたりけれど、いたづらにてやみにけり。
(注1)宮司 ――― 皇后に仕える役人。
(注2)船さし ――― 船を操作する人。
(注3)狩袴染めなどして ――― 「狩袴」は狩衣を着用する際の袴。これを、今回の催しにふさわしいように染めたということ。
(注4)島がくれ ――― 島陰。頼通邸の庭の池には島が築造されていた。そのため、島に隠れて邸(やしき)側からは見えにくいところがある。
(注5)御前より申し出だして ――― 皇后寛子からお借りして。
(注6)宇治の僧正 ――― 頼通の子、覚円。寛子の兄。寛子のために邸内の普賢堂で祈禱(きとう)をしていた。
(注7)繡花 ――― 花模様の刺繍(ししゅう)。
(注8)目もなく笑みて ――― 目を細めて笑って。
(注9)連歌 ――― 五・七・五の句と七・七の句を交互に詠んでいく形態の詩歌。前の句に続けて詠むことを、句を付けるという。
下線部イの解釈として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
イ ことごとしく歩みよりて
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問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問22(第3問(古文) 問2) (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は源俊頼(としより)が著した『俊頼髄脳(としよりずいのう)』の一節で、殿上人たちが、皇后寛子のために、寛子の父・藤原頼通の邸内で船遊びをしようとするところから始まる。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に番号を付してある。
[1] 宮司(みやづかさ)(注1)ども集まりて、船をばいかがすべき、紅葉(もみぢ)を多くとりにやりて、船の屋形にして、船(ふな)さし(注2)は侍(さぶらひ)のa 若からむをさしたりければ、俄(にはか)に狩袴(かりばかま)染めなどして(注3)きらめきけり。その日になりて、人々、皆参り集まりぬ。「御船はまうけたりや」と尋ねられければ、「皆まうけて侍り」と申して、その期(ご)になりて、島がくれ(注4)より漕(こ)ぎ出(い)でたるを見れば、なにとなく、ひた照(て)りなる船を二つ、装束(さうぞ)き出でたるけしき、いとをかしかりけり。
[2] 人々、皆乗り分かれて、管絃(くわんげん)の具ども、御前より申し出だして(注5)、そのことする人々、前におきて、ア やうやうさしまはす程に、南の普賢堂に、宇治の僧正(注6)、僧都(そうづ)の君と申しける時、御修法(みずほふ)しておはしけるに、かかることありとて、もろもろの僧たち、大人、若き、集まりて、庭にゐなみたり。童部(わらはべ)、供(とも)法師にいたるまで、繡花(しうくわ)(注7)装束きて、さし退(の)きつつ群がれゐたり。
[3] その中に、良暹(りやうぜん)といへる歌よみのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて(注8)、平(ひら)がりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「b さに侍り」と申しければ、「あれ、船に召して乗せて連歌(れんが)(注9)などせさせむは、いかがあるべき」と、いま一つの船の人々に申しあはせければ、「いかが。あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかなとや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら連歌などはせさせてむなど定めて、近う漕ぎよせて、「良暹、さりぬべからむ連歌などして参らせよ」と、人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとてc まうけたりけるにや、聞きけるままに程もなくかたはらの僧にものを言ひければ、その僧、イ ことごとしく歩みよりて、
「もみぢ葉のこがれて見ゆる御船(みふね)かな
と申し侍るなり」と申しかけて帰りぬ。
[4] 人々、これを聞きて、船々に聞かせて、付けむとしけるが遅かりければ、船を漕ぐともなくて、やうやう築島(つくじま)をめぐりて、一めぐりの程に、付けて言はむとしけるに、え付けざりければ、むなしく過ぎにけり。「いかに」「遅し」と、たがひに船々あらそひて、二(ふた)めぐりになりにけり。なほ、え付けざりければ、船を漕がで、島のかくれにて、「ウ かへすがへすもわろきことなり、これをd 今まで付けぬは。日はみな暮れぬ。いかがせむずる」と、今は、付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆く程に、何事もe 覚えずなりぬ。
[5] ことごとしく管絃の物の具申しおろして船に乗せたりけるも、いささか、かきならす人もなくてやみにけり。かく言ひ沙汰する程に、普賢堂の前にそこばく多かりつる人、皆立ちにけり。人々、船よりおりて、御前にて遊ばむなど思ひけれど、このことにたがひて、皆逃げておのおの失(う)せにけり。宮司、まうけしたりけれど、いたづらにてやみにけり。
(注1)宮司 ――― 皇后に仕える役人。
(注2)船さし ――― 船を操作する人。
(注3)狩袴染めなどして ――― 「狩袴」は狩衣を着用する際の袴。これを、今回の催しにふさわしいように染めたということ。
(注4)島がくれ ――― 島陰。頼通邸の庭の池には島が築造されていた。そのため、島に隠れて邸(やしき)側からは見えにくいところがある。
(注5)御前より申し出だして ――― 皇后寛子からお借りして。
(注6)宇治の僧正 ――― 頼通の子、覚円。寛子の兄。寛子のために邸内の普賢堂で祈禱(きとう)をしていた。
(注7)繡花 ――― 花模様の刺繍(ししゅう)。
(注8)目もなく笑みて ――― 目を細めて笑って。
(注9)連歌 ――― 五・七・五の句と七・七の句を交互に詠んでいく形態の詩歌。前の句に続けて詠むことを、句を付けるという。
下線部イの解釈として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。
イ ことごとしく歩みよりて
- たちまち僧侶たちの方に向かっていって
- 焦った様子で殿上人のもとに寄っていって
- 卑屈な態度で良暹のそばに来て
- もったいぶって船の方に近づいていって
- すべてを聞いて良暹のところに行って
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この過去問の解説 (3件)
01
「ことごとしく」の意味と、「歩みよりて」の主語である「その僧」がどのような動きをしたかが重要なポイントになります。
「ことごとし」は「仰々しい」という意味ですが、意味を知らなかった/忘れてしまった場合でも、「その僧」の動きや文脈からある程度は推測可能です。
船に乗った殿上人たちは、庭に集まっている群衆の中に良暹という歌人を発見します。
殿上人たちが岸辺にいる良暹を連歌に誘うと、良暹は傍らの僧侶に何事か申しつけ、その僧侶が殿上人たちの側に「ことごとしく」歩み寄ってきた––という状況です。
上記をふまえて各選択肢を見ていきましょう。
下線部イの主語は「その僧」、向かって行った先は「人々」(=船に乗った殿上人たち)であるため、誤りです。
「ことごとし」の意味が分からなかった場合は判断がやや難しくなりますが、焦っているのであれば「歩みよりて」というゆったりとした表現にはならないはず、と考えると正解候補から除外できます。
下線部イの主語は「その僧」、向かって行った先は「人々」(=船に乗った殿上人たち)であるため、誤りです。
「ことごとし」の大まかな意味は「仰々しく」ですが、「もったいぶって」はそれに類するものと捉えることができます。
「船の方に近づいていって」という訳も、僧侶が歩みよって行った先が「人々」(=船に乗った殿上人たち)であることを正しく解釈できていると判断できるため、この選択肢が正解です。
下線部イの主語は「その僧」、向かって行った先は「人々」(=船に乗った殿上人たち)であるため、誤りです。
「ことごとしく」の意味と、「歩みよりて」の主語である「その僧」がどのような動きをしたかが重要なポイントでした。
基本的な品詞や単語の知識、敬語の用法などは確実に覚えていつでもアウトプットできる状態にしておくのがベストですが、本番で万が一それが出来なかった場合は、読み取れた語句から最低限の映像をイメージしてみるのも一つの手段です。
殿上人たちが船に乗っていて、庭の群衆を見ている。するとそこに良暹がいるのを発見する。
これをイメージできただけでも殿上人と良暹の位置関係が分かりますし、下線部イの直後を読めば、僧侶が殿上人たちに何かを伝えて帰っていったということが分かり、そこを手掛かりに僧侶の動きが明らかになります。
基礎的な文法知識や語彙力を養うのと並行して、文章から得た情報を矛盾無く繋ぎ合わせる論理的思考力も養うようにしましょう。
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02
この問題を解答するポイントは以下の2点です。
①ことごとしの意味が分かるか。
②品詞分解ができるか。
「ことごとし」の意味を間違えているため、不適当です。
また、僧が船に近づいてきているため、進行方向が逆です。
「ことごとし」の意味を間違えているため、不適当です。
「ことごとし」の意味を間違えているため、不適当です。
また、僧が船に近づいてきているため、進行方向が逆です。
文章の内容に沿った記述です。
「ことごとし」の意味を間違えているため、不適当です。
また、僧が船に近づいてきているため、進行方向が逆です。
最初に提示したとおり、解答するポイントは以下の2点です。
①ことごとしの意味が分かるか。
→「ことごとし」は、仰々しい、大げさに、といった意味を持つ単語です。
②品詞分解ができるか。
ことごとしく歩みよりて = ことごとしく/歩みより/て
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03
正答は「もったいぶって船の方に近づいていって」です。
身分の高い殿上人だけが船に乗って楽しんでいるなかで、歌の名手の良暹を見つけたある殿上人が「船に乗せて連歌をしよう」と発案します。
しかし船に乗っているのは殿上人だけのため、わざわざ僧侶を乗せなくてもいいとの反対意見が出ます。
そこで、良暹は陸に残したまま歌だけ詠ませようと決まった場面で下線部イとなります。
身分の高い人ほど大声を出すことはありません。
すべて殿上人と良暹との言葉を若い僧侶が伝達する形になっていることに気をつけながら、各選択肢を見ていきましょう。
不適当です。
下線部イの直前から現代語訳すると、
「(良暹は殿上人から連歌を詠むよう言われたのを)聞いてすぐ、隣にいた僧侶に言葉を伝えると、その僧は、下線部イ(ことごとしく歩みよりて、)(良暹様は)「もみぢ葉のこがれて見ゆる御船(みふね)かな」と申しておりました」
となります。
僧侶のいる場所から良暹の言葉を伝えるべく殿上人たちの方へと移動しているのに、元いたはずの「僧侶たちの方に向かって」というのは、まったく移動していないため文章と矛盾します。
不適当です。
移動する方向は正しいですが、「ことごとしく」に「焦る」の意味がないため誤りとなります。
「ことごとしく」は「事事しく」「事々しく」などと書き、「仰々しく」「小さなことでも大きく扱って」との意味になります。
不適当です。
こちらも「ことごとしく」の意味が誤りです。
また僧侶はもともと良暹の隣にいるため、歩み寄る必要はありません。
適当です。
単語の意味も正しく、本文の状況とも矛盾しません。
不適当です。
「すべて」は形容詞の「ことごとしく」ではなく「ことごとく」という副詞の意味てす。
またこちらも、良暹の隣にいる僧侶が良暹のところへ行く必要はありません。
単語の意味がわかれば前後の状況がわからなくても正答へたどりつけます。
もし単語の意味がわからない場合は、前後の状況から類推しましょう。
そのためには誰が何をしたか、誰に何を言ったかという、行動や言葉の方向を見分けることが重要となります。
この方向が最も表れるのが、敬語です。
初見の文章を理解するためにも、敬語の表現と意味はきちんと理解しておきましょう。
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