大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問23 (第3問(古文) 問3)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問23(第3問(古文) 問3) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は源俊頼(としより)が著した『俊頼髄脳(としよりずいのう)』の一節で、殿上人たちが、皇后寛子のために、寛子の父・藤原頼通の邸内で船遊びをしようとするところから始まる。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に番号を付してある。

[1] 宮司(みやづかさ)(注1)ども集まりて、船をばいかがすべき、紅葉(もみぢ)を多くとりにやりて、船の屋形にして、船(ふな)さし(注2)は侍(さぶらひ)のa 若からむをさしたりければ、俄(にはか)に狩袴(かりばかま)染めなどして(注3)きらめきけり。その日になりて、人々、皆参り集まりぬ。「御船はまうけたりや」と尋ねられければ、「皆まうけて侍り」と申して、その期(ご)になりて、島がくれ(注4)より漕(こ)ぎ出(い)でたるを見れば、なにとなく、ひた照(て)りなる船を二つ、装束(さうぞ)き出でたるけしき、いとをかしかりけり。
[2] 人々、皆乗り分かれて、管絃(くわんげん)の具ども、御前より申し出だして(注5)、そのことする人々、前におきて、やうやうさしまはす程に、南の普賢堂に、宇治の僧正(注6)、僧都(そうづ)の君と申しける時、御修法(みずほふ)しておはしけるに、かかることありとて、もろもろの僧たち、大人、若き、集まりて、庭にゐなみたり。童部(わらはべ)、供(とも)法師にいたるまで、繡花(しうくわ)(注7)装束きて、さし退(の)きつつ群がれゐたり。
[3] その中に、良暹(りやうぜん)といへる歌よみのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて(注8)、平(ひら)がりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「b さに侍り」と申しければ、「あれ、船に召して乗せて連歌(れんが)(注9)などせさせむは、いかがあるべき」と、いま一つの船の人々に申しあはせければ、「いかが。あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかなとや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら連歌などはせさせてむなど定めて、近う漕ぎよせて、「良暹、さりぬべからむ連歌などして参らせよ」と、人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとてc まうけたりけるにや、聞きけるままに程もなくかたはらの僧にものを言ひければ、その僧、ことごとしく歩みよりて
「もみぢ葉のこがれて見ゆる御船(みふね)かな
と申し侍るなり」と申しかけて帰りぬ。
[4] 人々、これを聞きて、船々に聞かせて、付けむとしけるが遅かりければ、船を漕ぐともなくて、やうやう築島(つくじま)をめぐりて、一めぐりの程に、付けて言はむとしけるに、え付けざりければ、むなしく過ぎにけり。「いかに」「遅し」と、たがひに船々あらそひて、二(ふた)めぐりになりにけり。なほ、え付けざりければ、船を漕がで、島のかくれにて、「かへすがへすもわろきことなり、これをd 今まで付けぬは。日はみな暮れぬ。いかがせむずる」と、今は、付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆く程に、何事もe 覚えずなりぬ
[5] ことごとしく管絃の物の具申しおろして船に乗せたりけるも、いささか、かきならす人もなくてやみにけり。かく言ひ沙汰する程に、普賢堂の前にそこばく多かりつる人、皆立ちにけり。人々、船よりおりて、御前にて遊ばむなど思ひけれど、このことにたがひて、皆逃げておのおの失(う)せにけり。宮司、まうけしたりけれど、いたづらにてやみにけり。

(注1)宮司 ――― 皇后に仕える役人。
(注2)船さし ――― 船を操作する人。
(注3)狩袴染めなどして ――― 「狩袴」は狩衣を着用する際の袴。これを、今回の催しにふさわしいように染めたということ。
(注4)島がくれ ――― 島陰。頼通邸の庭の池には島が築造されていた。そのため、島に隠れて邸(やしき)側からは見えにくいところがある。
(注5)御前より申し出だして ――― 皇后寛子からお借りして。
(注6)宇治の僧正 ――― 頼通の子、覚円。寛子の兄。寛子のために邸内の普賢堂で祈禱(きとう)をしていた。
(注7)繡花 ――― 花模様の刺繍(ししゅう)。
(注8)目もなく笑みて ――― 目を細めて笑って。
(注9)連歌 ――― 五・七・五の句と七・七の句を交互に詠んでいく形態の詩歌。前の句に続けて詠むことを、句を付けるという。

下線部ウの解釈として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。

ウ  かへすがへすも

  • 繰り返すのも
  • どう考えても
  • 句を返すのも
  • 引き返すのも
  • 話し合うのも

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この過去問の解説 (3件)

01

まず、第4段落の状況を整理しましょう。

 

殿上人たちは歌人・良暹が詠んだ句への返しを考えようと躍起になっています(「付ける」という動詞がこの文章では「連歌の続きの句を詠む」ことを意味していると気付けるかがポイントです)。

しかしなかなか続きの句が浮かばずに時が過ぎてしまい、島の陰に船を回して「どうしよう、どうしよう…」と嘆いている、という場面です。

 

ここで改めて下線部ウを見てみると、「かへすがへすも」の後に続いている言葉は「わろきことなり、これを今まで付けぬは」です。

つまり、「連歌の続きが未だに詠めていないのは、○○良くないことだ」の○○に当てはまる語句として適切なものを選ぶと正解となります。

選択肢1. 繰り返すのも

現代語の意味につられるとこの選択肢を選びたくなってしまいますが、殿上人たちが何に対して「かへすがへすもわろきことなり」と言っているのかを考えれば、「繰り返すのも」という捉え方は誤りと判断できます。

選択肢2. どう考えても

文中で語られている状況に合致しているこの選択肢が正解です。

選択肢3. 句を返すのも

殿上人たちが良暹のもとに続きの句を詠みに行こうとしている状況と矛盾するため、誤りです。

選択肢4. 引き返すのも

殿上人たちが良暹のもとに続きの句を詠みに行こうとしている状況と矛盾するため、誤りです。

選択肢5. 話し合うのも

殿上人たちは未だに返す句を詠めていないことに対して「かへすがへすもわろきことなり」と言っているのであり、「話し合うのも」という訳では話が繋がらなくなってしまうので誤りです。

まとめ

第4段落で語られている状況の把握+「かへすがへすも」の後に続く「わろきことなり、これを今まで付けぬは」を正しく捉えていれば正解できる問題です。そのためには「付ける」を「連歌の続きを詠む」という意味だと気付けるかが重要でした。

 

問われている語句の意味を暗記していなかったとしても文脈を正しく理解すれば十分に対応可能な問題なので、諦めずに文章を読んでみましょう。

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02

この問題を解答するポイントは以下の2点です。
かへすがへすの意味が分かるか。
品詞分解ができるか。

選択肢1. 繰り返すのも

「かへすがへす」の意味としては合っているのですが、前後の文脈を見るとよりよい解釈があるため、不適当です。

選択肢2. どう考えても

文章の内容に沿った記述です。

選択肢3. 句を返すのも

「かへすがへす」の意味を間違えているため、不適当です。

選択肢4. 引き返すのも

「かへすがへす」の意味を間違えているため、不適当です。

選択肢5. 話し合うのも

「かへすがへす」の意味を間違えているため、不適当です。

まとめ

最初に提示したとおり、解答するポイントは以下の2点です。
かへすがへすの意味が分かるか。
→「かへすがへす」は、繰り返し何度も、どう考えても、といった意味を持つ単語です。

 今回の問題では意味としては正解な選択肢が2つありましたが、前後の流れを見ると「どう考えても」に絞ることができます

②品詞分解ができるか。
かへすがへすも = かへすがへす/も
 

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03

適当なのは「どう考えても」です。

 

「返す返す」は現代語では「重ね重ね」「繰り返し言うと」などの意味になり、お願いするときによく使う慣用句です。

 

一方古文では、もう少し踏み込んだ意味で「(繰り返し言っても)やはり」「(結果は変わらないのだから結局)どう考えても」と、相手へ自分の意見を伝えるときにも使います。

 

また本文では、

「かへすがへすもわろきことなり、〜」と、(中略)、付けでやみなむことを嘆く程に、

とあるため、カギ括弧「」のなかは後悔を語る台詞となっているとわかります。

 

このことから、今は「繰り返し」よりも「(繰り返し繰り返し考えた末の)どう考えても」が妥当だとわかります。

選択肢1. 繰り返すのも

不適当です。

 

現代語としても古文としても慣用句の意味は合っています。

しかし古文においては、この場合より適当な選択肢があるうえに、本文の文脈と合わないため不適当となります。

選択肢2. どう考えても

適当です。

古文の意味としても、本文の文脈とも合致します。

 

下線部ウ前後を現代語訳すると、「(連歌に続く歌を)付けないで、船を漕ぐこともなく、島の影になっている部分に留まりながら、「(このまま歌を付けられないのは)どう考えても良くないことだ。これまで歌が付けられないのは」となります。

選択肢3. 句を返すのも

不適当です。

 

返歌、返句の際に「かへすがへす」は使いません。

古文の意味としても、文脈としても合致しないため不適当となります。

選択肢4. 引き返すのも

「返す」とあるので選びそうになりますが、不適当です。

古文の意味としても合致しません。

 

「引き返すのも悪いことだ」とすると、「歌を付けられないのは」という下線部ウの後ろと意味が通りません。

加えて、下線部ウを含む台詞のさらに後の「今は、付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆く」ともつながりません。

 

また、いちいち文脈を考えなくとも、後悔している台詞のなかで「引き返す」という今後の建設的な内容を話していることになるこの選択肢は不適切です。

後悔は未来の計画ではなく、これまでに行ってきたことに対してするものです。

 

「付ける」を「歌を付ける」ではなく「船を陸に着ける」と解釈してしまうと、「引き返すのも」を選んでしまう可能性があります。

必ず「何を」付けるのかを確認しましょう。

選択肢5. 話し合うのも

「かへすがへす」に「話し合う」意味はないため、不適当です。

 

二組に分かれて口論している状況ではあるため、文脈だけで言えば「話し合う」が来てもおかしくはありません。

 

しかしカギ括弧の後の文脈まで考えると、「話し合うのもわろきこと」ではなく、「(話し合って考えていてもグダグダしているだけで続く歌を付けられないでいるのは)どう考えてもわろきこと」との意味がより適当です。

まとめ

「かへすがへすも」のように副詞の意味を問われた際には、その副詞の修飾している形容詞や動詞などが何を指しているのかを必ず考えるようにしましょう。

 

今回は「わろきことなり」と続く文章全体を修飾しているため、本文中で何が「わろきこと」として考えられているのかを見極めることが大切です。

 

意味の知らない単語が出てきても、文脈を考えれば正答へたどり着けます。

まずは諦めないこと、次に状況を正しく理解することが大切です。

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