大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和5年度(2023年度)本試験
問24 (<旧課程>第3問(古文) 問4)

このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。

問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和5年度(2023年度)本試験 問24(<旧課程>第3問(古文) 問4) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は源俊頼(としより)が著した『俊頼髄脳(としよりずいのう)』の一節で、殿上人たちが、皇后寛子のために、寛子の父・藤原頼通の邸内で船遊びをしようとするところから始まる。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に番号を付してある。

[1] 宮司(みやづかさ)(注1)ども集まりて、船をばいかがすべき、紅葉(もみぢ)を多くとりにやりて、船の屋形にして、船(ふな)さし(注2)は侍(さぶらひ)のa 若からむをさしたりければ、俄(にはか)に狩袴(かりばかま)染めなどして(注3)きらめきけり。その日になりて、人々、皆参り集まりぬ。「御船はまうけたりや」と尋ねられければ、「皆まうけて侍り」と申して、その期(ご)になりて、島がくれ(注4)より漕(こ)ぎ出(い)でたるを見れば、なにとなく、ひた照(て)りなる船を二つ、装束(さうぞ)き出でたるけしき、いとをかしかりけり。
[2] 人々、皆乗り分かれて、管絃(くわんげん)の具ども、御前より申し出だして(注5)、そのことする人々、前におきて、やうやうさしまはす程に、南の普賢堂に、宇治の僧正(注6)、僧都(そうづ)の君と申しける時、御修法(みずほふ)しておはしけるに、かかることありとて、もろもろの僧たち、大人、若き、集まりて、庭にゐなみたり。童部(わらはべ)、供(とも)法師にいたるまで、繡花(しうくわ)(注7)装束きて、さし退(の)きつつ群がれゐたり。
[3] その中に、良暹(りやうぜん)といへる歌よみのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて(注8)、平(ひら)がりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「b さに侍り」と申しければ、「あれ、船に召して乗せて連歌(れんが)(注9)などせさせむは、いかがあるべき」と、いま一つの船の人々に申しあはせければ、「いかが。あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかなとや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら連歌などはせさせてむなど定めて、近う漕ぎよせて、「良暹、さりぬべからむ連歌などして参らせよ」と、人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとてc まうけたりけるにや、聞きけるままに程もなくかたはらの僧にものを言ひければ、その僧、ことごとしく歩みよりて
「もみぢ葉のこがれて見ゆる御船(みふね)かな
と申し侍るなり」と申しかけて帰りぬ。
[4] 人々、これを聞きて、船々に聞かせて、付けむとしけるが遅かりければ、船を漕ぐともなくて、やうやう築島(つくじま)をめぐりて、一めぐりの程に、付けて言はむとしけるに、え付けざりければ、むなしく過ぎにけり。「いかに」「遅し」と、たがひに船々あらそひて、二(ふた)めぐりになりにけり。なほ、え付けざりければ、船を漕がで、島のかくれにて、「かへすがへすもわろきことなり、これをd 今まで付けぬは。日はみな暮れぬ。いかがせむずる」と、今は、付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆く程に、何事もe 覚えずなりぬ
[5] ことごとしく管絃の物の具申しおろして船に乗せたりけるも、いささか、かきならす人もなくてやみにけり。かく言ひ沙汰する程に、普賢堂の前にそこばく多かりつる人、皆立ちにけり。人々、船よりおりて、御前にて遊ばむなど思ひけれど、このことにたがひて、皆逃げておのおの失(う)せにけり。宮司、まうけしたりけれど、いたづらにてやみにけり。

(注1)宮司 ――― 皇后に仕える役人。
(注2)船さし ――― 船を操作する人。
(注3)狩袴染めなどして ――― 「狩袴」は狩衣を着用する際の袴。これを、今回の催しにふさわしいように染めたということ。
(注4)島がくれ ――― 島陰。頼通邸の庭の池には島が築造されていた。そのため、島に隠れて邸(やしき)側からは見えにくいところがある。
(注5)御前より申し出だして ――― 皇后寛子からお借りして。
(注6)宇治の僧正 ――― 頼通の子、覚円。寛子の兄。寛子のために邸内の普賢堂で祈禱(きとう)をしていた。
(注7)繡花 ――― 花模様の刺繍(ししゅう)。
(注8)目もなく笑みて ――― 目を細めて笑って。
(注9)連歌 ――― 五・七・五の句と七・七の句を交互に詠んでいく形態の詩歌。前の句に続けて詠むことを、句を付けるという。

下線部a〜eについて、語句と表現に関する説明として最も適当なものを、次の選択肢のうちから一つ選べ。

  • a 「若からむ」は、「らむ」が現在推量の助動詞であり、断定的に記述することを避けた表現になっている。
  • b 「さに侍り」は、「侍り」が丁寧語であり、「若き僧」から読み手への敬意を込めた表現になっている。
  • c 「まうけたりけるにや」は、「や」が疑問の係助詞であり、文中に作者の想像を挟み込んだ表現になっている。
  • d 「今まで付けぬは」は、「ぬ」が強意の助動詞であり、「人々」の驚きを強調した表現になっている。
  • e 「覚えずなりぬ」は、「なり」が推定の助動詞であり、今後の成り行きを読み手に予想させる表現になっている。

次の問題へ

正解!素晴らしいです

残念...

この過去問の解説 (3件)

01

文法問題です。

選択肢を一つ一つ検証していきましょう。

 

選択肢1. a 「若からむ」は、「らむ」が現在推量の助動詞であり、断定的に記述することを避けた表現になっている。

a「若からむ」を品詞分解すると、若から(若かるのク活用・未然形)/(婉曲の助動詞。活用語の未然形に付く)となります。

 

現在推量の助動詞「らむ」は活用語の終止形に付き、「若かるらむ」で「今頃は若いだろう」という意味になりますが、文章として不自然ですし文脈にも合っていません。

 

したがって、この選択肢は誤りです。

 

選択肢2. b 「さに侍り」は、「侍り」が丁寧語であり、「若き僧」から読み手への敬意を込めた表現になっている。

b「さに侍り」の「侍り」は「若き僧」から殿上人への敬意を示した表現のため、誤りです。

選択肢3. c 「まうけたりけるにや」は、「や」が疑問の係助詞であり、文中に作者の想像を挟み込んだ表現になっている。

正解です。

 

まうけ/たり/ける/に/や」(用意していたのだろうか)については以下の通りです。

 

まうけ…「まうく」(用意をする)【カ下二】の連用形。

たり…完了の助動詞「たり」【ラ変】の連用形。

ける…過去の助動詞「けり」【ラ変】の連体形。

に…断定・伝聞・推定の助動詞「なり」【ラ変】の連用形。

や…疑問の係助詞「や」

選択肢4. d 「今まで付けぬは」は、「ぬ」が強意の助動詞であり、「人々」の驚きを強調した表現になっている。

この文章での「付く」は「上の句、または下の句を付け加える」という意味の動詞【カ下二】であり、d「今まで付けぬは」は「付く」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形です。

 

なお、強意の助動詞「ぬ」は動詞の連用形に接続し「きっと~」という意味になります。

 

したがって、「ぬ」が強意の助動詞という解釈は誤りです。

選択肢5. e 「覚えずなりぬ」は、「なり」が推定の助動詞であり、今後の成り行きを読み手に予想させる表現になっている。

e「覚えずなりぬ」の「なり」は後ろに完了の助動詞「ぬ」が接続していることから、動詞「なる」(~な状態になる)の連用形であると判断できます。(意味:何も考えられなくなってしまった)

 

したがって、この選択肢は誤りです。

まとめ

文法知識を問われる問題でした。

文脈からある程度は絞り込むこともできますが、知識の引き出しが無い場合は考え続けることでタイムロスになってしまうので、一旦他の問題を終わらせてから再度確認する方が効率的でしょう。

参考になった数0

02

この問題を解答するポイントは以下の2点です。
助動詞の意味と活用を覚えているか。
品詞分解ができるか。

選択肢1. a 「若からむ」は、「らむ」が現在推量の助動詞であり、断定的に記述することを避けた表現になっている。

「若からむ」は、品詞分解を行うと「若から(ク活用未然形)/む(婉曲の助動詞「む」連体形)」であり、そもそもの単語の切れ目が間違っているため、不適当です。

選択肢2. b 「さに侍り」は、「侍り」が丁寧語であり、「若き僧」から読み手への敬意を込めた表現になっている。

「侍り」が丁寧語な点は合っているのですが、会話中の丁寧語の場合は敬意の対象は会話の相手となります。

よって読み手ではなく殿上人へ向けたものとなり、不適当です。

選択肢3. c 「まうけたりけるにや」は、「や」が疑問の係助詞であり、文中に作者の想像を挟み込んだ表現になっている。

文法、文章の内容ともに本文に沿った記述のため、正解です。

選択肢4. d 「今まで付けぬは」は、「ぬ」が強意の助動詞であり、「人々」の驚きを強調した表現になっている。

「今まで付けぬは」は、品詞分解を行うと「今/まで/付け(下2段活用「付く」未然)/ぬ(打消の助動詞「ず」連体形)/は」であり、「ぬ」の用法が間違っているため、不適当です。

選択肢5. e 「覚えずなりぬ」は、「なり」が推定の助動詞であり、今後の成り行きを読み手に予想させる表現になっている。

「覚えずなりぬ」は、品詞分解を行うと「覚え/ず(打消の助動詞「ず」連用形)/なり(4段活用動詞「なり」連用形)/ぬ」であり、「なり」の説明が間違っているため、不適当です。

まとめ

最初に提示したとおり、解答するポイントは以下の2点です。
助動詞の意味と活用を覚えているか。
→助動詞の理解ができているか否かで文章読解の精度は格段に上がります。
 ぜひ教科書に掲載されている主要なものは暗記し、実戦で使用できるよう練習しておきましょう。

 

品詞分解ができるか。
今回の問題は品詞分解ができるか否かで正答率が大きく変わります。

参考になった数0

03

正解の選択肢は「「まうけたりけるにや」は、「や」が疑問の係助詞であり、文中に作者の想像を挟み込んだ表現になっている。」となります。

 

どこが誤りなのかも含めて、他の選択肢も見ていきましょう。

選択肢1. a 「若からむ」は、「らむ」が現在推量の助動詞であり、断定的に記述することを避けた表現になっている。

不適当です。


「らむ」の意味は4つ「現在推量」「現在の原因推量」「婉曲」「伝聞」があります。

 

このうち選択肢にある「現在推量」は目に見えていないことに対して「〜だろうか」という意味です。

目に見える場合の推量は「現在の原因推量」となります。

 

船漕ぎは目に見えているので、推量であるとすれば現在の原因推量ですが、船漕ぎが若い原因を推量する意味がわかりません。

若い人は若いから若い、それ以上でもそれ以下でもありません。

 

伝え聞いている「伝聞」でもないため、この場合は「婉曲」で「若い」を強めていると捉えるのが妥当です。

選択肢2. b 「さに侍り」は、「侍り」が丁寧語であり、「若き僧」から読み手への敬意を込めた表現になっている。

敬語の方向が異なるため、不適当です。

 

カギ括弧内の敬語は登場人物から登場人物へと宛てられたものです。

 

今回は「若き僧」から「(船の上の)人々」へ向けられた丁寧語です。

選択肢3. c 「まうけたりけるにや」は、「や」が疑問の係助詞であり、文中に作者の想像を挟み込んだ表現になっている。

適当です。

 

品詞分解すると、カ行下二段活用「まうく(設く)」の連用形に完了の助動詞「たり」の連用形、伝聞の助動詞「けり」の連体形、断定の助動詞「なり」の連用形に疑問の係助詞「や」が接続した形となります。

 

意味は、「準備していたのではないか」となります。

 

殿上人たちの来訪を知っていたはずの良暹なら、歌を詠むよう言われることも想定していて、事前に歌を準備できていたのかもしれないとの作者の想像が込められています。

選択肢4. d 「今まで付けぬは」は、「ぬ」が強意の助動詞であり、「人々」の驚きを強調した表現になっている。

不適当です。

 

この「ぬ」は、「今まで付けぬ(こと)は」として意味が通じるため、打ち消しの助動詞「ず」の連体形と考えられます。

 

「ぬ」が強意の助動詞となるのは、直後に推量の意味の助動詞を伴う場合です。

選択肢5. e 「覚えずなりぬ」は、「なり」が推定の助動詞であり、今後の成り行きを読み手に予想させる表現になっている。

不適当です。

 

この「なり」は断定の助動詞の連用形で、完了の助動詞の終止形「ぬ」に接続しています。

 

その後もしっかりと情景描写が続き、読者へ「今後の成り行きを予想させる」余地はありません。

まとめ

助動詞の意味をしっかりと覚えているかが問われている問題です。

 

古文では単語が独特なため単語帳を持ち歩くことが多いでしょう。

しかし、文章を読み解くにあたり最も汎用性が高いのは助動詞の勉強です。

 

活用や接続など覚えることはたくさんありますが、助動詞の一覧を片手に数多く文章題をこなして表現に慣れていきましょう。

参考になった数0