大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)追・再試験
問26 (第4問(古文) 問2)
問題文
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部イの解釈として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
(イ)都がちにあくがれたりつるを
このページは閲覧用ページです。
履歴を残すには、 「新しく出題する(ここをクリック)」 をご利用ください。
問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)追・再試験 問26(第4問(古文) 問2) (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部イの解釈として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
(イ)都がちにあくがれたりつるを
- 都にすっかり飽きていたのに
- 都の人々を苦々しく思っていたのに
- 都にばかり出かけていたので
- 都の生活をいつも夢見ていたので
正解!素晴らしいです
残念...
この過去問の解説 (3件)
01
「都がちに」「あくがれ」「たり」「つる」「を」と品詞分解できます。
「都がちに」は形容動詞「都がちなり」の連用形です。「〜しがち」という語が現代語でもあるように、「〜がちなり」は、「そうなる傾向が強いこと」を意味します。
また、選択肢では「あくがる」の解釈がそれぞれですので、「あくがる」の語彙を知っていれば正答を選べる問題です。
不適当です。
「飽きる」という意味は「あくがる」にはありません。「飽く」という古語は存在しますので、その語と混同してしまっているといえるでしょう。
不適当です。
「苦々しく」という意味は「あくがる」にはありません。意訳しすぎといえます。
これが最も適当です。
「〜がちなり」は「そうなる傾向が強いこと」を意味しますので、「都にばかり出かけていた」と解釈するのは語意に沿っています。また、「あくがる」は、「さまよい歩く、(魂が)体から抜け出す」といった意味があります。「出かける」という解釈は、この「あくがる」の語意に沿ったものですし、他の選択肢と比べても最も適当だといえるでしょう。
不適当です。
「夢見る」という意味は「あくがる」にはありません。意訳しすぎといえます。
文脈から解釈しても正答が導ける可能性はあります。しかし、語の意味を踏まえて本文を解釈することは必須ですので、知識を解答の裏付けとして常に照らし合わせる癖をつけると古文では点数アップにつながります。
参考になった数0
この解説の修正を提案する
02
[2]段落の下線部イまでで、本文では、
「女君はかつては男性として都の宮中に出仕しており、ある程度立場のある人だったのに、権中納言に男装がバレてしまったせいで迫られて妊娠してしまい、出仕もできなくなり都を離れ宇治に住まわされたけれど、権中納言はまた別の女性を妊娠させていて…」
との内容が書かれています。
現代語訳しづらければ注釈も参考にしながら読みましょう。
そんな内容から続くのが、下線部イの「都がちにあくがれたりつるを」です。
品詞分解すると、
都→名詞「都」
がち→接尾語「〜の傾向がある、頻繁に〜する」
に→場所・目的・対象・理由の格助詞「に」
あくがれ→動詞「あくがる」の連用形「うわの空になる、さまよう、落ち着かない」
たり→存続・完了の助動詞
つる→完了の助動詞
です。
「たりつる」はどちらも完了の助動詞として詠嘆の気持ちも込めているとの解釈と、存続「たり」と完了「つる」で英語の過去完了形のようにある時まで続いていたものが過去のある時点で終わったとの解釈があります。
どちらも訳語は「~していた」「〜してしまった」です。
そのため「あくがる」の意味がわかるかで正答へたどりつけるかが分かれます。
「あくがる」は「憧る」と書き、現代の「憧れる」と同じ漢字で同じように「体と心が離れる」を中核の意味とします。
しかし、現代のような「心を奪われる」「夢中になる」などのプラスの意味ではなく、「(魂が抜けて)放心状態になる」「(意識が抜けて)体だけさまよう」など、ネガティブな意味をもちます。
それでは各選択肢を見ていきましょう。
不適当です。
「あくがる」を動詞「飽く」として訳出したものひっかけの選択肢です。
「すっかり」に当てはまる副詞もありません。
文脈としても、都から宇治へ無理やり飛ばされた人が「都に飽きた」と言うのは妙です。
不適当です。
「あくがる」を「悪がる」だと思えば、悪→苦と連想してひっかかりやすくなっています。
「人々」に該当する単語もありません。
また、男装して出仕できていた輝かしい過去を思い出して「都を恋しがる」との意味ならまだしも、「都の人々を」苦々しく思う要素はありません。
適当です。
都がちに→都にばかり(頻繁に〜する)
あくがる(さまよう)→出かける
と、少し変換して訳出されています。
未練たらたらで宇治から都へふらっと出かけてばかりいたとの様子は、文脈とも矛盾しません。
不適当です。
「あくがる」を現代語的に訳したものですが、古文の「あくがる」に「夢見る」の意味はありません。
また、女君はかつて都暮らしをしていたので、「夢見る」必要はありません。
もしするとしたら「思い出す」です。
品詞分解できても、現代語に引っ張られると間違いやすい問題です。
動詞の知識を問うている問題ですので、特に現代語と違う意味をもつ単語は押さえておきましょう。
参考になった数0
この解説の修正を提案する
03
「都がち」または「あくがる」のいずれかの意味が正しく取れるかがポイントとなります。
まず、「~がち」は「~な傾向が強い」という意味を表す接尾語ですので、4つの選択肢の中に近い意味の訳文があるか見てみましょう。すると「都にばかり出かけていたので」がそれに該当することが分かります。
この時点で解答が確定しますが、念のため「あくがる」の意味も確認しておきましょう。
あくが・る【憧る】(自動詞、ラ行下二段活用)
①うわの空になる。
②出歩く。さまよう。
③疎遠になる。
本問では②の意味が該当します。これは現代語の「あこがれる」の意味に引きずられてしまうと出てこない訳なので注意が必要です。
「都がちにあくがれたりつるを」の「あく」の部分に引きずられてしまうと、「飽く」と誤訳してしまうことになります。「あくがる」で一つの動詞であるということに注意しましょう。
「都がちにあくがれたりつるを」の「あく」の部分の言葉の響きで、何となく「悪」→「苦々しい」と連想するとこのような誤訳になってしまいます。
あく or あくがるの見極めで混乱した場合は、視点を切り替えて「都がち」を正しく訳している選択肢を探してみると良いでしょう。
この選択肢が正解となります。
解答時点では、答えを絞り込んだら念のため訳が下線部前後の文脈に合っているかも確認すると良いでしょう。
「あくがる」の意味を考える際に現代語の「憧れる」に引きずられるとこのような誤訳になってしまいます。
しかし、「都がち」に果たして「都の生活」という意味があるのか?と考えてみると、この選択肢は誤りと判断できます。
下線部で使われる「あくがる」の意味は「出かける」であり、現代語の「憧れる」とは大きく離れているだけに、判断に悩む問題だったのではないでしょうか。このような場合は、一旦視点を切り替えて「都がち」の方に注目してみましょう。「~がち」の意味が反映された選択肢はどれか?と考えると、答えはおのずと一つに絞られます。
なお、本問は「たり」「つる」の意味が分からなくても解答可能でしたが、学習時にはこれらの意味も押さえるようにしましょう。
たり(助動詞)
①(完了)…た。…してしまった。
②(存続)…ている。…てある。
③(並列)…したり、…したり。
つる
完了の助動詞「つ」の連体形
この2つをまとめて、「~していた(ので)」という訳になります。
参考になった数0
この解説の修正を提案する
前の問題(問25)へ
令和7年度(2025年度)追・再試験 問題一覧
次の問題(問27)へ