大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)追・再試験
問27 (第4問(古文) 問3)
問題文
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部ウの解釈として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
(ウ)をこがまし
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問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)追・再試験 問27(第4問(古文) 問3) (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部ウの解釈として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
(ウ)をこがまし
- おろかしい
- 騒がしい
- おそろしい
- わざとらしい
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この過去問の解説 (3件)
01
「をこがまし」は、形容詞で、「間が抜けている、みっともない、ばかげている」といった意味があります。類語に、形容動詞の「をこなり」が存在します。現代語とは意味が異なりますので注意しましょう。
これが最も適当です。
「をこがまし」には「みっともない、ばかげている」といった意味があり、語義に沿っています。
不適当です。「をこがまし」にこのような意味はありません。
不適当です。「をこがまし」にこのような意味はありません。
不適当です。「をこがまし」にこのような意味はありません。
語の知識に関する問題では、現代語と意味が異なる単語は頻出です。現代語の意味に引っ張られ、解釈を誤らないよう注意しましょう。
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02
下線部ウ前後の[3]段落の文を見ると、「泣かれたまふ」や「御けしき」など、敬語が目立ちます。
本文中で最も位が高いのは権中納言です。
彼の妻である女君や彼の子である若君にも敬語は使われますが、それは権中納言に敬語がつくからこそのおまけのような扱いです。
立場のある人の妻と子だから敬われていても、本人自体はそこまで偉くない、ということです。
そのため、敬語の使われる行動は真っ先に、権中納言の行動かもしれないと考えましょう。
ゆえに、女君の残り香で泣き嘆くことが書かれている[3]段落は、「人のをこがまし」以外は、すべて権中納言の行動です。
乳母はもってのほかで、侍女に近い存在のため、敬語を使うことはありません。
女君を求めて泣いて足摺りする様子を他の人が「をこがまし」と思うということは、「年甲斐もなくみっともない、男らしくない、都にいたかった女君が宇治で大人しく待っているはずもないのに失踪の可能性を考えずに他の女性の元へ通っていたなんて」などの心情が込められていると考えるのが妥当です。
これに最も当てはまるのは「おろかしい」でしょう。
古文での「をこがまし」は、
①ばかげている
②みっともない
③愚かだ
などの意味をもちます。
現代語の「おこがましい」(図々しい)に引きずられることなく、単語通りの意味を選びましょう。
適当です。
解説冒頭の文脈にも即しています。
不適当です。
泣いているのが「騒がしい」と思いたくなるかもしれませんが、「よよと泣かれたまふ」はわんわん声を上げて泣くのではなく、しくしく涙を袖で拭うような泣き方のため、「騒がしい」とまでは言い切れません。
単語の意味としても不適当です。
不適当です。
単語の意味とも合わず、文脈にも即していません。
不適当です。
現代語の「おこがましい」に最も近い選択肢ですが、古文単語としての意味とは合致しません。
また、泣いて足摺りして伏して女君を恋しがる権中納言の様子を周りが見て「わざとらしい」と思うかは疑問が残ります。
[3]段落の最後には権中納言がどれほど悲痛な顔をしているかが書かれています。
これを見て「わざとらしい」と言うよりは、「(そこまで大事ならもっと大切にできただろうに)ばかだなあ、おろかだなあ」と思うほうが、文脈としても適しています。
単語の意味がわからないときは前後の文脈から類推します。
その際には、主語が誰なのか常に気にするようにしましょう。
「人のをこがまし」は格助詞「の」のため、「をこがまし」と思っているのは権中納言ではなく権中納言の様子を見ている人となります。
他の文は権中納言の行動です。
古文では特別なとき以外主語が省略されるため、気をつけましょう。
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03
「をこがまし」の意味は①ばかげている、みっともない②出過ぎているであり、本文では①が該当するため、「おろかしい」が正解となります。現代語の「おこがましい」から類推するのは困難なので、意味を覚えていなかった際は文脈を頼りに考えることになります。
さて、[2][3]の段落は主語が明示されていませんが、文章を読んでいて誰が何をしているか理解できていたでしょうか。
[2][3]の段落でその場にいる人物は権中納言(「殿」)です。「殿」は女君の失踪という事態に直面して彼女に思いを馳せ、若君が無邪気に笑う様に心を痛め、女君が残した着物をかぶって泣きじゃくります。
ここまでの問題で文章理解につまずいている人は上記の点に注意しながら全体を読み直し、解答を見直してみると良いでしょう。
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