大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)追・再試験
問28 (第4問(古文) 問4)
問題文
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部a〜dについて、語句と内容に関する説明として適当でないものを、次のうちから一つ選べ。
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問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)追・再試験 問28(第4問(古文) 問4) (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部a〜dについて、語句と内容に関する説明として適当でないものを、次のうちから一つ選べ。
- a「え申し出でず」は、「え」が「ず」と呼応して不可能の意を表し、本当のことを言えない乳母の様子を表している。
- b「思しけむ」は、「けむ」が過去推量の助動詞で、以前の女君の胸の内を権中納言が想像していることを表している。
- c「あはれ」は、「ふびんだ」という意の形容動詞で、取り残された権中納言が自らを哀れんでいることを表している。
- d「よよと泣かれたまふ」は、「れ」が自発の助動詞で、泣かずにはいられなかった権中納言の様子を表している。
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この過去問の解説 (3件)
01
文法の基礎知識や古語の意味について理解しているかが鍵になります。知識を問う問題ともいえます。
適当でないものを選ぶ問題ですので引っかからないようにしましょう。
適当な説明ですので正答ではありません。
「え〜打消表現」は呼応する表現で「〜できない」(不可能)の意味となります。「ず」は打消の助動詞ですので、この文法に当てはまります。
本文の解釈としても、「乳母もえ申し出ず」の文脈から、この説明も適切です。
適当な説明ですので正答ではありません。
「けむ」は過去推量の助動詞ですし、この説明のように解釈するのも適切です。傍線部を含む部分は、権中納言の心情に寄り添った記述です。「見も馴らはずあやしくあいなし」の動作の主体には敬語は使われていないので、これは女君の様子を表し、「思し」と尊敬語が用いられているので、「思しけむ」という動作の主体は権中納言と分かります。
不適当な説明ですのでこれが正答です。
「あはれ」は形容動詞ではなく感動詞が使われています。形容動詞「あはれなり」であれば、「あはれに」のように語幹が必ず含まれるはずです。
また、内容説明も誤りで、この「あはれ」は女君が若君を残して姿を消したことに対する思いを表しています。
適当な説明ですので正答ではありません。
「れ」は自発の助動詞です。「自然と〜される」の訳となり、感情や知覚を表す動詞に付く場合が多いです。自発の助動詞を伴う動詞は限られますので、感覚を掴めると良いでしょう。
また、「泣かれ」に「たまふ」という尊敬の補助動詞が付いていることから、動作の主体は権中納言と解釈でき、選択肢後半の説明も適切です。
敬語により主体判別ができますので、解釈の参考にしましょう。助動詞の意味と合わせて、知識を踏まえ適切に本文を解釈できているか試されていますので、知識習得だけでなくそれを活用できるレベルまで知識を磨きましょう。
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02
「適当でないもの」を選ぶ問題であることに注意しましょう。
正答は「「あはれ」は、「ふびんだ」という意の形容動詞で、取り残された権中納言が自らを哀れんでいることを表している。」です。
正誤を考えながら各選択肢を見ていきましょう。
正しいため、正答ではありません。
「え〜ず」で不可能の意味を表します。
また「え~ず」で「申し出で」との謙譲語を挟んでいることから、地位の低い乳母から権中納言へ、ものを言いたくても言えない状況を表しているとわかります。
正しいため、正答ではありません。
「けむ」は過去推量の助動詞です。
権中納言が自らの行いを省みて、「そんなことをされたら出ていきたくもなるだろうな」と考えている文脈にも矛盾しません。
誤りのため、正答です。
「不憫だ」との形容動詞は「あはれなり」です。
「あはれ」は、
①感動詞「ああ」「わあ」など特に意味のない言葉
②名詞「しみじみと感慨深い」
③名詞「しみじみと悲しい」
など、パッとわかる感情よりも時間が経つごとに実感のわくような感情に対して使われる言葉です。
下線部cの場合は「あはれ」だけが独立して文中に挿入されているため、①の感動詞に該当します。
文脈としては、「若君を見捨ててはいけない」と権中納言が自分を叱咤しながらも女君に置いていかれた悲しさに暮れている場面のため、選択肢の文章は矛盾しません。
「あはれ」を形容動詞と解説する前半のみが誤りとなっています。
正しいため、正答ではありません。
「れ」は受身、尊敬、自発、可能の助動詞「る」の連用形です。
女君の失踪を知って、下線部d「しくしく自然と泣けてきてしまう」という文脈に対し、「自発の助動詞」との説明は、本文に矛盾しません。
文法知識をまとめて問う問題です。
基本的なものばかりなので、古文の勉強をしていれば一度は目にしているでしょう。
重要なポイントなので、正解不正解を問わず、この機会に文法についてしっかりと復習しておきましょう。
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03
適当でないものを選ぶ問題ですので、誤って適当なものを選ばないよう注意しましょう。
「あはれ」は、①感動詞(ああ)②名詞(しみじみとした趣、悲しさ、愛情)のいずれかの用法で使われます。
本文では「…あはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそ…」と、文の途中に挟まれる形で使われていることから、「ああ」という感動詞として使われていると判断できます。
したがって、あはれを「取り残された権中納言が自らを哀れんでいることを表している」と解釈している選択肢が適当でないものとなります。
権中納言の感情を表現するのであれば形容動詞「あはれなり」が使われるはずで、「あはれ」という形で使われているということはそれ以外の用法だろう…と推測できるかがポイントです。
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