大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)追・再試験
問29 (第4問(古文) 問5)

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問題

大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)追・再試験 問29(第4問(古文) 問5) (訂正依頼・報告はこちら)

次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。

[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。

(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。

下線部A「日ごろいかなるけしきか見えたまひし」とあるが、乳母は女君の「けしき」をどのようなものであったと答えたか。最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。

  • 一人でいるときには、若君の世話もできないほど思い沈んでいる様子だった。
  • 隠れて泣くことが多く、不満にも気がかりにも思っている人がいる様子だった。
  • 自分が周りの人たちに迷惑をかけることに対して、心を痛めている様子だった。
  • 宇治から去ろうとする強い意志があって、少しもためらいはない様子だった。

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この過去問の解説 (3件)

01

傍線部のみの訳だけでなく、本文全体の内容を把握し、関連箇所はどこか見抜くことが大切です。

傍線部の訳としては、「ここ数日どのような様子がお見えなさいましたか」となり、権中納言から乳母に対する疑問文です。この回答として「さる御けしきも(中略)つゆも見たてまつらざりき」の権中納言の質問に続くセリフ部分が該当しますので、ここの内容と選択肢を比較しながら検討できると良いでしょう。

選択肢1. 一人でいるときには、若君の世話もできないほど思い沈んでいる様子だった。

不適当です。

乳母の回答の中の「一ところおはしますほどは(中略)暮らさせたまひしをば」の部分を解釈した内容と考えられます。「若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ」は、「若君を目も離さず見申し上げなさって」というような訳ですので、説明のように「若君の世話もできないほど」と解釈するのは不適当です。

選択肢2. 隠れて泣くことが多く、不満にも気がかりにも思っている人がいる様子だった。

これが最も適当です。

乳母の回答の中の「うち忍び(中略)おはしますらむなどこそ」の部分を解釈した内容と考えられます。「忍ぶ」には「隠れる」の意味がありますし、「恨めしくもおぼつかなくも」は「恨めしいとも気がかりとも」といった訳ですので説明に矛盾はありません。「きこえ/させ/たまふ」は、敬語の補助動詞と尊敬の助動詞で、「思ふ」に付属して敬意を示しているに過ぎませんので、今回のような説明文では選択肢のように「思っている人が」と解釈してしまって矛盾はありません。

選択肢3. 自分が周りの人たちに迷惑をかけることに対して、心を痛めている様子だった。

不適当です。

乳母の回答の中の「世の中に(中略)見たてまつりはべりしかば」の部分を解釈した内容と考えられます。「恨めしくも(中略)させたまふ」ですが、乳母→女君への二重敬語のため、乳母から見た女君の行動を表しています。そのため、選択肢のように「自分が」と説明するのは主体を誤っています。

選択肢4. 宇治から去ろうとする強い意志があって、少しもためらいはない様子だった。

不適当です。

乳母の回答の中の「かうざまに(中略)つゆも見たてまつらざりき」の部分を解釈した内容と考えられます。ただし、「かうざまに思しめしなるらむ御けしき」=「このようにお思いになっているようなご様子」は、「つゆも見たてまつらざりき」=「少しも拝見することはございませんでした」と述べているのであり、説明と真逆の内容です。ここまでの本文の流れを汲み取れてないといえるでしょう。

まとめ

敬語に着目することで、文の主語が明らかになります。登場人物と主従関係、誰のセリフか、などに注目し、適切な解釈ができるよう努めましょう。

また、本文の該当箇所と照らし合わせて、矛盾のない説明ができているのはどれか、比較しましょう。本文の該当箇所を見つけ出せるかも鍵となります。

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02

下線部Aは権中納言が女君の失踪を聞き、乳母に対して「普段どんな様子だったのだ。家族も来ていたのだろう(=だから寂しくないはずだろう?)」と詰め寄ったところです。
そのため、自分まで責められるのではと感じた乳母が必死に弁明する、下線部Aの次のかぎ括弧の台詞が解答となります。

 

「さる御けしきもえ見えはべらず。(中略)つゆも見たてまつらざりき」
の乳母の台詞では、
「失踪するような様子は見えなかった。若君を甲斐甲斐しく世話していた。ただ人目を忍んで泣くときがあり、不満に思っている人や気がかりな人がいるのかなと、私(乳母)は心苦しく(女君の)様子を窺っていた」
との内容が、敬語をふんだんに用いて書かれています。

 

正答はこれらの台詞を踏まえて、「隠れて泣くことが多く、不満にも気がかりにも思っている人がいる様子だった。」です。

 

それでは各選択肢を見ていきましょう。

選択肢1. 一人でいるときには、若君の世話もできないほど思い沈んでいる様子だった。

不適当です。

 

「若君を目も放たず見たてまつらせたまひ」
との台詞から、女君は若君から一瞬たりとも目を離さないで世話をしていたとわかります。

 

「目を放つ」という現代の慣用句はありませんが、「放つ」から「放射状」「放物線」などの単語を思いつけば、「目線をどこかへやる、目を逸らす」の意味だと推測できます。

選択肢2. 隠れて泣くことが多く、不満にも気がかりにも思っている人がいる様子だった。

適当です。
乳母の台詞をきちんと訳せています。

選択肢3. 自分が周りの人たちに迷惑をかけることに対して、心を痛めている様子だった。

不適当です。
女君が周りの人をどう思っていたかに該当する文章は、本文中にはありません。

選択肢4. 宇治から去ろうとする強い意志があって、少しもためらいはない様子だった。

不適当です。
「さる御けしきもえ見えはべらず」から、「宇治から去ろうと思っている様子は見えなかった」と乳母は証言しています。

まとめ

①該当箇所を見つけられるか
②敬語に惑わされず、台詞の意味がつかめるか
の2点が鍵となります。

 

①は長文読解と同じ、②は古文単語の知識を問う問題です。

 

「恨めし」は「恨み」の他に「不満がある」「残念だ」「悲しく悔しい」など、「恨み」から派生する相手への気持ちについての意味があります。
「おぼつかなし」は「今自分のいる場所がわからない」を中核の意味として、「気がかりだ」「不安だ」と訳すことがあります。

両方ともこの機会に覚えておきましょう。

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03

a え申し出でず」の直後に続く「さる御けしきもえ見えはべらず。…」の部分を正しく理解できているかが問われる問題です。

 

一語一語を訳す時間が足りなかった場合でも、最低限「女君には出奔しそうな様子は見えなかった。若君の世話はしていたが、忍び泣いていることがあった」という点が押さえられれば消去法で正解を絞り込むことは可能です。

 

選択肢1. 一人でいるときには、若君の世話もできないほど思い沈んでいる様子だった。

若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ」は若君から片時も目を離さず世話している様子を表した文であるため、「世話もできないほど思い沈んでいる様子」という解釈は誤りです。

選択肢2. 隠れて泣くことが多く、不満にも気がかりにも思っている人がいる様子だった。

この選択肢が正解となります。

 

隠れて泣いていることが多いという部分が正しく訳せている上、「世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか」(世の中に不満ながら気がかりに思っているお相手がいらっしゃるのだろうかなどと、気の毒に拝見しておりました)の解釈も適切です。

選択肢3. 自分が周りの人たちに迷惑をかけることに対して、心を痛めている様子だった。

このような記述は本文に無いため、誤りです。

選択肢4. 宇治から去ろうとする強い意志があって、少しもためらいはない様子だった。

乳母の「さる御けしきもえ見えはべらず」つまり「そのような(=出奔しそうな)ご様子には見えませんでした」という言葉があることから、宇治から去ろうとする強い様子を見せていたとする解釈は誤りです。

まとめ

a え申し出でず」の直後に続く「さる御けしきもえ見えはべらず。…」の部分を正しく理解できてたでしょうか。

一語一語を細かく訳す必要はありませんが、選択肢を絞り込むのに必要な最低限の情報は正しく掴めるようにしましょう。

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