大学入学共通テスト(国語) 過去問
令和7年度(2025年度)追・再試験
問30 (第4問(古文) 問6)
問題文
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部B「見たてまつり嘆かる」とあるが、誰がどのように嘆いているのか。その説明として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
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問題
大学入学共通テスト(国語)試験 令和7年度(2025年度)追・再試験 問30(第4問(古文) 問6) (訂正依頼・報告はこちら)
次の文章は、『とりかへばや物語』の一節である。主人公の女君は女性であることを隠し、男性として宮中で活躍していた。ところが、権(ごん)中納言(本文では「殿」)にその秘密が見破られ、迫られて契りを結んだ。その後、妊娠した女君は都から離れた宇治に住まわされ、子ども(本文では「若君」)を出産したが、結局、女君は兄弟の助けを借りてひそかに宇治から脱出した。これを読んで、後の問いに答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に[1]〜[3]の番号を付してある。
[1]宇治には、若君の御乳母(めのと)、明くるまで帰りたまはねば(注1)あやしと思ふに、御格子(みかうし)など参るほどまで見えたまはず。人々尋ねあやしがりきこゆるに、言はむ方なくあきれて、思ひ寄るまじきものの隈々(くまぐま)などまで尋ね求めたてまつるに、(ア)いづくにかおはせむ。言ふかひなく思ひまどふほどに、殿おはしたるに、かうかうと聞こえさすれば、うち聞きたまふよりかきくらし心まどひたまひて、ものもおぼえたまはず。「さても、いかなりしことぞ。A 日ごろいかなるけしきか見えたまひし。古里(ふるさと)のわたり(注2)より訪れ寄る人やありし」と問ひたまふを、我さへ騒がれぬべければ(注3)、乳母もa え申し出でず、「さる御けしきもえ見えはべらず。見たてまつらせたまふほどはさりげなくて、一(ひと)ところおはしますほどは、若君を目も放たず見たてまつらせたまひつつ、うち忍び泣き明かし暮らさせたまひしをば、世の中に恨めしくもおぼつかなくも思ひきこえさせたまふ人やおはしますらむなどこそ、心苦しく見たてまつりはべりしか。かうざまに思(おぼ)しめしなるらむ御けしきとつゆも見たてまつらざりき」と聞こゆるに、言はむ方なし。
[2]限りなくのみもてかしづかれたりし身(注4)を、いとかく忍び隠(かく)ろへたるさまにて、あなたざまのこと(注5)を心に入れて扱ひつつ、ここにはありもつかず(イ)都がちにあくがれたりつるを、げにいかに見も馴(な)らはずあやしくあいなしとb 思しけむを、うち見るにはすべてさりげなくやすらかなりし御けしきありさまの、かへすがへす見るとも見るとも飽く世なくめでたかりし恋しさの、やらむ方なく、時のほどに心地もかき乱り、来し方行く末もおぼえず、かなしく堪(た)へがたきに、巡りあひ尋ねあはむことおぼえず、いかにせむとかなしきに、若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑(ゑ)み顔を見るが、限りと思ひとぢむる(注6)世のほだしといとど捨てがたくあはれなるにも、c あはれ、かかる人を見捨てたまひけむ心強さこそと思へど、あさましく、ことわりはかへすがへすも言ひやる方なく、胸くだけてくやしくいみじく、人の御つらさも限りなく思ひ知らる。
[3]臥(ふ)したまひ御座所(おましどころ)に脱ぎ捨てたまへりし御衣(ぞ)どものとまれるにほひ、ただありし人なるを、引き着て、d よよと泣かれたまふ。かばかりのことを夢に見むだに覚めての名残(なごり)ゆゆしかるべし、かたちけはひの言ふ方なく愛敬(あいぎゃう)づきにほひ満ちて、憂きもつらきもあはれなるも、いとにくからず心うつくしげにうち言ひなしたまひし恋しさの、さらにたとへて言はむ方なく、胸よりあまる心地して、人の(ウ)をこがましと見思はむこともたどられず、足摺(あしず)り(注7)といふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、B 見たてまつり嘆かる。
(注1)帰りたまはねば ―― 女君が乳母の部屋から戻ってこないということ。前の晩、乳母は女君がその兄弟に会う場所として自分の部屋を提供していた。
(注2)古里のわたり ―― 女君の実家や縁者。
(注3)我さへ騒がれぬべければ ―― 自分までも責め立てられそうだということ。乳母は、女君とその兄弟が会うために協力したことを、権中納言に知らせていなかった。
(注4)限りなくのみもてかしづかれたりし身 ―― かつて男性として宮中に出仕していた頃の女君のこと。
(注5)あなたざまのこと ―― 都にいる別の女性のこと。この女性は権中納言との子を出産したばかりであった。
(注6)限りと思ひとぢむる ―― ここでは、若君を見るのもこれが最後と決意して、出家などしてしまうこと。
(注7)足摺り ―― 幼児が足を動かして激しく泣く時のようなしぐさ。
下線部B「見たてまつり嘆かる」とあるが、誰がどのように嘆いているのか。その説明として最も適当なものを、次のうちから一つ選べ。
- 女君は宇治から逃げ出すまでに思いつめていたのに、その気持ちに気づくことができなかった我が身を省みて、実にふがいないことだと権中納言が嘆いている。
- 女君に会いたくて我慢できずに泣きじゃくっている若君のあどけない姿を目の当たりにして、なんとしても女君に戻ってきてほしいと権中納言が嘆いている。
- 女君を失ったつらさのあまり、まわりの目も気にしていられないほど悲しみに暮れる権中納言を前にして、ひどく気の毒なことだと周囲の人々が嘆いている。
- いつまでも都を恋しがってばかりで権中納言や若君のことを少しも考えなかった女君の振る舞いに対して、あまりに冷淡なことだと周囲の人々が嘆いている。
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この過去問の解説 (3件)
01
心情について理解していているか問われています。傍線部はもちろん、傍線部の心情に至った背景がそれまでに語られているはずですので、直前部分までの流れも確認しましょう。
「見/たてまつり/嘆か/る」=「嘆かわしいと拝見せずにはいられない」というような訳です。「る」は感情・知覚動詞に付く自発の助動詞ですので、傍線部で使われる敬語動詞は「たてまつり」のみとなり、これが動作の主体を導くヒントとなります。選択肢では嘆く主体が、権中納言と周囲の人々に分けられますので、 主体を見抜くと大きなヒントになるでしょう。
不適当です。
嘆く主体を権中納言としている時点で選択肢から外せると良いです。「見たてまつり嘆かる」では尊敬語が用いられないため、動作の主体は下位の者だと解釈できます。ここでは、乳母や女房といった周囲の人々だと考えられますので、この説明は不適当です。権中納言や女君の行動では尊敬表現が必ず含まれますので、その点確認しましょう。
不適当です。
嘆く主体を権中納言としている時点で選択肢から外せると良いです。「見たてまつり嘆かる」では尊敬語が用いられないため、動作の主体は下位の者だと解釈できます。ここでは、乳母や女房といった周囲の人々だと考えられますので、この説明は不適当です。権中納言や女君の行動では尊敬表現が必ず含まれますので、その点確認しましょう。
これが最も適当です。
他の選択肢で解説している通り、「見たてまつり嘆かる」の主体を「周囲の人々が」と説明している点が適切です。また、心情の具体的説明も適当な内容です。本文で「泣きてもあまる心地して(中略)いみじくいとほしくわりなきを」の部分を正しく解釈できています。本文の流れとしては、女君の姿が宇治から消えたことを受け、権中納言が女君に思いを馳せる流れであり、目の前の女君を失ったショックを受ける権中納言に対して、周りの女房たちも同情を寄せる場面だと解釈するのが自然です。
不適当です。
全体的に本文に根拠が見出せない説明です。傍線部や傍線部の直前の箇所では、女君の振る舞いについて語っているわけではありません。周りの女房らが権中納言に同情を寄せてはいますが、女君を「冷淡だ」と非難するような内容ではありません。
敬語表現に着目すると動作の主体が見えてきます。それを足がかりとして本文の内容を把握し、適当な選択肢を導きましょう。心情説明の問題では、傍線部の訳と、その直前のくだりにも着目できると良いでしょう。
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02
下線部Bは権中納言が失踪した女君の部屋で女君を恋しがるあまりじたばたとみっともなくもがく様子が描かれたのち、
「(前略)御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを、(下線部B)見たてまつり嘆かる。」
となっています。
下線部B部分にのみ敬語がないため、ここだけは権中納言以外の人が主語だとわかります。
そのため正答は「周囲の人々が嘆いている。」との記述がある2択に絞れます。
あとは権中納言を嘆いているのか、女君を嘆いているのか、人々が嘆いている対象がどちらなのかです。
下線部Bの前を読むと、権中納言がもがく様子しか描かれていません。
そのため人々の嘆きの対象は権中納言だとわかります。
「嘆かる」は動詞「嘆く」の未然形「嘆か」に自発の助動詞「る」が接続した形です。
権中納言の様子を見た人々が、どうしても権中納言をかわいそうだと思わずにはいられない状況を表しています。
正答は「女君を失ったつらさのあまり、まわりの目も気にしていられないほど悲しみに暮れる権中納言を前にして、ひどく気の毒なことだと周囲の人々が嘆いている。」です。
それでは各選択肢を見ていきましょう。
文末が「権中納言が嘆いている」の段階で不適当です。
嘆きの主語は権中納言ではありません。
「女君は宇治から逃げ出すまでに思いつめていたのに、その気持ちに気づくことができなかった我が身を省みて、実にふがいないことだと」の部分は、女君の失踪を知ってからの[2][3]段落を鑑みると、総合してそこまで誤りではないでしょう。
しかしながら文末は確実に誤りのため、不適当となります。
同じく、文末が「権中納言が嘆いている」の段階で不適当です。
また、「若君のかかることやあらむとも知らず顔に何心なき御笑み顔」とあり、若君は母の失踪など知らず笑っていることがわかります。
選択肢の文章がすべて誤りのため、不適当です。
適当です。
人目をはばからず取り乱す権中納言の様子と、それを目にした周りの人々が「いみじくいとほしくわりなき」と感じた様子がきちんと訳されています。
いみじく…「ひどく」
いとほしく…「残念だ」「悲しい」「気の毒だ」
わりなき…中核の意味は「道理に合わない」から良い意味だと「この世のものとは思えないくらい素晴らしい」、悪い意味では「どうしようもない」「ひどい」など
各単語を上記のように訳すことも、ついでに覚えておきましょう。
「周囲の人々が嘆いている」は合っていますが、後半が不適当です。
嘆きの対象は、下線部B含む文章では一切出てこない女君ではなく、人々の目の前で狂ったように悲しむ権中納言です。
いちいち訳さなくとも、敬語の有無と選択肢の選別で正答へたどりつける問題です。
古文では主語が省略される代わりに、立場のある人には必ず敬語がつきます。
敬語から主語を判断する習慣をつけておきましょう。
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03
下線部Bの直前の「足摺りといふらむこともしつべく、泣きてもあまる心地して沈み臥したまひぬる御けしきの、いみじくいとほしくわりなきを」という一節の中の「~たまひぬる御けしき」が重要なポイントとなります。
「~たまひぬる御けしき(=~なさってしまったご様子)」という尊敬語が使われていることから、沈み臥しているのは殿であると分かります。したがって、この場面は、周囲の人々が殿の様子を見ている場面だと読み取れます。
人々は殿が女君の出奔によって気落ちしている様子が「いみじくいとほしくわりなきを(とても気の毒で仕方がない)のを」B 見たてまつり嘆かる(拝見して嘆かずにはいられない)のです。
上記の点から、「女君を失ったつらさのあまり、まわりの目も気にしていられないほど悲しみに暮れる権中納言を前にして、ひどく気の毒なことだと周囲の人々が嘆いている」という説明が正解となります。
B 見たてまつり嘆かるを品詞分解して文法的に意味を取っていく方法もありますが(たてまつる=謙譲の補助動詞。る=自発の助動詞「~せずにはいられない」)、本問では下線部直前の「~たまひぬる御けしき」という尊敬語に注目してその主語を正確に判断することが重要となります。文中に明示されていない主語を敬語の用法から見分けるテクニックは古文の読解において必須ですので、正解できなかった場合は解説を参考にしながら本文を読み直してみましょう。
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